15 魔法使いと腕輪
腕輪とありますが後半全く違う話です。
日曜日。ボランティアから一日経ち、家でのんびりしているとジルマが突然俺の部屋に入ってきて腕輪を見せつけてきた。なんだか奇妙な腕輪だ、色は紫、水玉のような模様で何か異様なオーラを放っている。
「それどうしたんだ?」
「ここの倉庫にあったの、それでこの腕輪色々凄いのよ」
「その腕輪が?」
「なんとこの腕輪、喋るのよ」
「は?」
腕輪が喋る、もしかして魔界ではそれが何か別の意味の言葉とか? 普通に考えて腕輪が喋るって意味わからないし、そもそも口がないし。
「ねえ、さっきみたいに何か喋ってよ」
「……ええ? あ、すいません寝てました」
「寝るの!?」
「喋るの!?」
「いや喋るって言ったじゃない!」
まさか本当に喋るとは、夢じゃないよな? 口はない、どういう原理だ?
「私は万能腕輪という腕輪でして様々なことが出来るのです」
「さっきこの腕輪ってばこの後雨が降るって言ったから本当かなーって思ってたんだけどその一分後くらいに急に雨が降ってきてね。とにかく凄いのよこれ」
「天気予報か? 何でもできるか……他に何が出来るんだ?」
腕輪が言うには天気予報に加えてありとあらゆる料理のレシピを出したり、ネットに接続出来たり、魔法や異能の知識があったりするらしい……でもこんなものがどうして倉庫に? 俺の両親はいったいどこでこんなものを見つけたんだろう?
「いやあずっと倉庫に閉じ込められていまして暗くて嫌でしたよ、ずうっと一人でしりとりしてたり妄想話考えてたりしてたんですから」
「随分悲しい日常だな」
「ねえ、これ貰っていい?」
「別にいいよ、ずっと倉庫にあったんだから」
それからジルマは腕輪を常に身に着ける程気に入ったらしい、腕輪といってもなんだか居候が増えたみたいな感覚だな。でもよく考えればこの腕輪はずっと居候していたようなもんか、倉庫に。
一週間が経って喋る不思議な腕輪の加わった日常に慣れてきた時だった。インターホンが鳴って誰かと思い見てみれば珍しいことに藤林だった。玄関を開けると我が家に遠慮なく入って来た。
「胡桃! 遊びに来たわ!」
「未来ちゃん! いらっしゃい」
「家主に一言ぐらい言ってもいいんじゃないんですかね?」
「ああ、アンタいたの?」
「いるわ! ここ俺ん家! てかついさっき家に上げたばっかじゃん!」
「冗談よ冗談。邪魔するわ、そんなことより! 胡桃に変なことしてないでしょうね? 胡桃変なことされなかった?」
おい、止めろ。胡桃さん? 何だかそこで無言で顔を赤く染めてもじもじするの止めてくれる? 何だか本当に何かあったみたいだから! ほら藤林が刀に手を掛け始めてるから! もう止めて!?
「なーんにもないよ」
「あらそう? ならいいんだけど」
「良いなら刀から手を放せよ」
それから胡桃の部屋に行ってから二時間程経ち、出てきた藤林は俺の家を堂々と探索し始めてある物を見つけた。両親の写真だ、写真立てに入っていて満面の笑顔で俺と両親が写っている。
「これって……そういえばアンタ確か親は」
「死んだよ、事故でな」
呆気なかったものだ、確か飛行機が墜落したんだったかな。俺は一人で泣いたっけ。
「私の両親も、死んだわ。殺されたの」
「殺された!? ……犯人は」
「家のジジイよ」
何だって? 親が子供を殺したってのか?
「アイツはね、お父さんを見下してた。お父さんは剣士で剣術世界大会にも出る程の実力者だったわ、でもそれでもジジイより格下と言えばそうだった。ジジイは自分よりも弱い子供を許せなかったらしいわ、自分では一位の最強には届かない、だから子供を教育して超えさせる……でも超えられなかった、才能がなかったわけじゃない、ただ世界の壁ってものが想像以上に大きかっただけだった。当然ジジイは怒り狂って罵倒したらしいわ、それが原因で精神的に追い詰められて自殺したの」
「……そうか、それで殺されたって言い方を」
「お母さんもお父さんを追って自殺した、元々ジジイは剣の才能で人の価値を決めるようなヤツだからお母さんにも厳しかった。お父さんがいないならそれに耐える意味もない、そう思ったのかどうだったのかは分からないけど」
藤林の家庭環境がどんどん嫌なものになっていく、あの爺さん今度テレビに出たらすぐ電源切るか。重い空気になってしまった、これはどうにかしないと気まずい! 何とか話題を――ピンポーンと音がタイミングよく鳴る。ナイス! 誰だか知らないがよく来てくれた!
ピンポーン! ピンポピンポピンポピピピピピンポーン! うるせえ! すぐに出るから少しは待てや!
「はーいどちら様……あ」
「やあ、久しぶりだねまだくたばってなかったかガッカリだよ」
「……その言動にガッカリだよ」
水瀬兄! そういえばそろそろ胡桃の生活費とか持って来る日だったな忘れてた。
「ほらこれが今月分だ」
「ああ、ありがとうございます……せめてお邪魔しますくらい言ってくれません?」
この男俺に金を渡したらまるで当然かのように中に入っていきやがった! その不思議そうな顔は何だ? どこら辺を不思議に思った?
「何故僕がお邪魔しますなんて言わなきゃいけないんだ?」
「ここが俺ん家だからだよ!」
「いやいやここには胡桃が住んでいるだろう? つまりここは君と胡桃の家だ、ということはその兄である僕は必然的に君より立場が上となる。理解したかな」
何だその暴論は! そんなことを言っている間にもグングン進んでいくので追いかけざるをえない。二階へ行こうとしたその時居間から出てきた藤林に誰か聞かれたので俺は簡潔に説明。
「あ、確かに似てるわね」
「だよな、それで何でお前まで付いてくんの」
「いや一人でいるの暇だし胡桃のところに戻ろうと……あれ? こっち胡桃の部屋じゃないわよね?」
「あ? そういえばあいつ部屋知らないのか」
ん? この先はそういえばジルマに貸し与えた部屋だったような気がする。何だ? 何か嫌な予感がする。
「おい待てそっちは!」
「さあ! 我がラブリーエンジェル! 久しぶり――だね?」
あぁ……扉を開けた先には異様な光景が広がっていた。髑髏の首飾りを着けて魔女のような衣装を着たジルマ、全体的に紫や黒のカラーの部屋に改造され不気味さを増している。大きい壺の中には何かの赤い液体、天井からは蛙や虫の死骸。ヤバいヤバい何だこの部屋は! 少し見ない間に何があったらこうなるんだろう。
「うわああああああ!」
「きゃああああああ!」
二人は悲鳴を上げ気絶した。悲鳴を上げたいのはこっちだ、知らぬ間に部屋をこんなにされてるし。
「え? 何なわけ?」
「うん……全部お前が悪いわ」
「はい?」
そんな恰好で血みたいな液体混ぜて体中に跳ねかしてニヤニヤ笑ってたらなあ? 心構えしてなかったら気絶するわ。その後目を覚ますまで居間に寝かせていたが目を覚ますとジルマや部屋のことを忘れていた。
ちなみに翌日部活中に話を聞くと昨日は魔女が自分の生き血をかき混ぜている悪夢を見たらしくそんな話はしたくないと若干切れ気味で答えられた。
腕輪については前に書いていた作品と同じようなものなので喋る腕輪が好きな人は前の作品を見てください。




