14 新入部員とボランティア
俺はこの日、解決部関連で一番驚いたかもしれない。新入部員だ、新しく入部したいとか言う奴が現れた。
「俺は志賀雷牙だ、よろしくな!」
「えっと……入部はいいんだけど本当にここでいいの? 無能力者が大半よ?」
「別にそんなことで差別しねえって! むしろさ、俺感動したんだよ! 蔑まれながらも人助けやってることにさ!」
「そ、そう!? そこまで言われると嬉しくなっちゃうわね!」
まさか良い噂があまり立たないであろうこの部に入ろうなんて物好きがいるなんてな、しかも無能力者ってわけでもないらしいし。まあ嘘ってわけでもないみたいだし人手が増える分依頼が来たときは助かるな。自己紹介を終えて俺達はいつものように依頼者が来るのをただひたすら待ち続ける。たまにトランプとかをして遊んでいる。俺が入った時は依頼なんて来なかったっけ、だから今日も来ないかと思ってた時だった。
「皆いるかい?」
「あ、先生! 今日は来たんですね!」
「悪いねいつも」
誰かと思えば俺をここに連れてきた佐藤先生じゃないか、初めの時以来だな。
「あ、紹介しますと新入部員の志賀――」
「ああ知ってるよ、入部届ももう貰ってるしね」
「そ、そうでしたか」
「それより君達に頼み事がある、土曜日水雲川という河原で草むしりとゴミ拾いのボランティアがあるから参加してきてくれないか」
「分かりました、でも何か訳があるんですか?」
「実は本来なら僕が行くはずだったんだけれど急な会議があってね、その代わりに君達に出てほしいという訳だよ。まあ僕からの依頼だと思ってくれ」
良いように利用されてるだけだな、まあこの人は利用だの損得だのは考えていなさそうだけど。
「分かりました、先生からの依頼お引き受けします」
「助かるよ」
そして土曜日になりボランティア当日、俺達は水雲川に現地集合する形で集まっていた。
「ん? 胡桃お前何で虫かご持ってんだ?」
「ああこれはジルマちゃんから頼まれたの、虫が欲しいんだって」
そういえば何か言ってたな、黒魔術に虫の死体を入れるとか何とか。あいつ仮にも人の家で何してんだろう。
「しっかしまさかボランティアとはなあ」
「アハハ、ガッカリした? でもこういうことも大事だからやるんだ」
「全然、むしろやる気出てきたぜ。俺がここの植物全てを引き抜いてやるぜ」
「花とかは引き抜くなよ?」
新入部員の雷牙も気合入ってるし問題なさそうだな、でも問題がないと思っていると起きるのが日常であることを忘れていた。参加するメンバーの中に何故か根野の姿がある、あいつ何でいんの?
「お! 進藤!? お前が何故ここに! いやそんなことはどうでもいい、勝負しヴォッ!?」
「こら、騒がしくするな。周りの人に迷惑だろう」
「……う、うるせえな。これから静かに勝負するつもりだったんだよ」
そもそも勝負自体するな。しかし誰だ? 根野の通っている高校の制服を着ている男女達は?
「ああ自己紹介が遅れてすまない、私は法堂守里。海北学園の生徒会長だ、後ろの方にいるのは我が生徒会メンバー達だ」
「これはご丁寧に、俺は進藤歩――って生徒会長? 何で生徒会がそいつといるんですか?」
「ハッ! 何だか知らねえけど言いがかりつけられたんだよ」
「言いがかりではない、お前は喧嘩ばかりしている問題児だろう」
問題児の根野は罰として生徒会に入らされたらしい、俺じゃねえか!
「そんで入ってすぐ雑用をやらされるわで最悪だぜ」
「人手はあった方がいいからな、感謝している」
成程、入ってすぐに仕事があって頼りにされたのか。俺じゃねえじゃねえか!
「つーわけでゴミ拾いで勝負だ、逃げんじゃねえぞ」
そう言うと根野達は去っていった、どういうわけだ。というか勝負はそんな平和なのでいいのか。
それから草むしりとゴミ拾いがスタートした。こういった草むらには空き缶とかが結構落ちてるもんだな、俺は手に取ったゴミを袋にバンバン入れていく。あ、またブルーブルか。ブルーブル、これは自販機でも売っている人気商品で少し他のと比べると高めの値段設定なので俺には手を出せない。お、また、また、またか……捨てたの同じやつだろ。
「フヘヘッ! おい進藤! 見ろこのお宝を!」
どっちだ。まあいいけど根野のやつもだいぶ集まってるみたいだな……ブルーブルが。本当に何なんだ、誰だよ捨てたの! たまには他の飲み物飲めば!? 何で頑なにブルーブル一択なんだよ! そして捨てるんじゃねえよ!
* * * * * * * * *
歩から離れたところで一人、草むしりとゴミ拾いをしていた成瀬は疲れたので一息ついて休もうと思っていた。そこに成瀬に気付いた男二人が近づいていった、よく見るとその二人は宝天高校の制服を着ていた。
「あっれえー? こんなところに無能がいるなあ? 何してんのかなあ?」
「……草むしりとゴミ拾いです」
「へえー? 偉いねえ? 流石解決部ってわけだ」
成瀬には見覚えはないが男の方は成瀬のことを知っているらしかった。その後も人を馬鹿にしたかのような態度で二対一で言葉攻めをしてくる。成瀬は何を言われても耐えた、目から涙が零れそうになっても堪えた。もし何か反応してしまえばもっと何かを言われると思ったからだ。
「てかゴミ拾いかあー、それなら一つバカでかいゴミがあるじゃん」
「うわっマジだよ、気付かねえんだな」
成瀬は辺りを見回したがそんな大きいゴミは見つけられなかった、もしあるならば見落としていた自分が悪いと思ったから探したがやはりない。
「ばーか、お前のことだよ! ゴミ女! あ、ゴミに性別なんてないか」
「そうだな、こんな無能は人間じゃねえ。俺らと同じ生物なんて信じられねえよ」
「あ! ここにゴミがあるなら邪魔だな、焼いちまおうぜコレ」
限界。ずっと抑えていた涙が成瀬の顔から零れ落ちた。そんなことを気にもせず男の片方が手から炎を出し始めた。
「そうら! 汚物は焼却だ!」
男の手から炎が放たれ、成瀬の体を焦がし尽くす――筈だった。
「大丈夫かよ、部長さん」
そんな声が男達の後ろから聞こえてきた。男達はすぐに振り返るとそこには成瀬を抱えて立っていた雷牙の姿があった。
「だ、大丈夫よ。ありがとう志賀君」
「なら良かったぜ、部長さんに何かあったら大変だしよ」
「だ、誰だテメエ!? いつから、どうやって後ろに!?」
「俺か? 俺は志賀雷牙、解決部の一員さ。それにどうやって後ろにだったか? 何てことはねえ、ただ速く移動しただけだからな」
「か、解決部の? お、お前能力者だろ? 部員は全員無能じゃなかったのかよ!」
「し、知らねえよ……あ! 志賀ってもしかして」
「さてと、実は俺もさっきからでかいゴミが見えててな、しかも二つだ。これは報いだぜ? 二対一で自分より弱い女を虐めて悦に浸ってたゴミ共、さあ掃除の時間だ」
「ひっ!?」
電光石火。成瀬の目に映ったはまさに一瞬の出来事だった。雷牙は瞬時に男の横に移動して殴る、さらにそこからもう片方の男の横に移動して殴る。その結果、二人の男はまるで磁石がくっつくかのように衝突して気絶した。これは成瀬が瞬きを二回程した内に起こった出来事であった。
(速い! 何をしたのか全然分からなかった!)
「す、凄いのね志賀君」
「……いや、こいつらが弱かっただけだ。俺は別に凄くはねえよ、それより怪我ねえよな? なら戻ろうぜ? もういい時間だしよ」
「ええ、そうね。そうしましょうか」
(凄くない? 自己評価がかなり低いわね、今のはとても凄くないなんて言えない動きだった)
そうして何事もなかったかのように振る舞い今回の出来事は二人だけの秘密となった。
ちなみに歩と根野の勝負は歩がブルーブル22個、根野は20個で歩の辛勝だった。
「ブルーブル落ちすぎだろ!?」
「……また負けた」
あの男二人は過激な連中でああいったのが多くいるわけではありません。




