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賢い人が好きだけど


「ハウスクリーニング入れる?」

「いえ、充分綺麗ですし問題ないです!」


次の週の日曜、新谷さんがウチに内覧しに来た。


あの日の新谷さんへの『仕事の話』もやっぱり嘘だった。

鶯谷君は新谷さんに『さっき言ってた部屋は大河内さんの部屋である』と話したらしい。


どういう事かと言うと……


部屋を片付けてたのでもわかるように、鶯谷君は私と暮らす気だったのだ。


当初の予定では、『同居』を提案するつもりだったらしい。

簡単にウチ入り浸れたのを考えても、同居についても適当に言いくるめられる……と踏んでいたようだ。




あの夜──


鶯谷君の『婚活』の相手が自分だと理解した後、私は急激に酔いが回ったんじゃないかと思うほど体温が跳ね上がるのを感じた。おそらく真っ赤になっていた。


それを見て察したんだろう鶯谷君は『戦隊モノのカラー』を始め、自らのアピールを淡々と行い出す。


「年齢も近いですし、この部屋も分譲。 ローンはちょっと残ってますが、次のボーナスで完済するレベルです。 割とお得だと思いませんか?」

「いきなりだな!? いきなりだよ!」

「そうでもないですよ。 大体俺の事はもうわかってるでしょ? まぁ後は身体の相性位なもんで」


鶯谷君の発言におもわず逃げ腰になるも、彼は特に気にした風でもなく、特に動きもしない。


「警戒しなくても合意の上じゃないとしませんよ」

「…………まぁ、そうだろね」

「一緒に暮らしてみませんか? 渚さん。 婚活するよりてっとり早いと思いませんか」

「それは、同棲ってこと?」

「はい。 結婚を前提に」


「無茶苦茶だな」と私が溜め息と共に言うと、鶯谷君はさも心外そうな顔をした。


「全然気付かないアンタが悪いんですよ。 言っとくけど俺はちゃんとアピってましたよ? お友達との関係を知ってちょっと方法を変えようと思っただけです」


友達からゆっくり始めるつもりだったが、高井戸の話を聞き『友達としての価値が高まり過ぎるとマズイ』と思い、急遽方法を変えたのだという。


「気になるならお試しに『同居』でもいいですよ。 さっきも言ったように分譲なんで、家賃は俺が頂きます。 2万でどうですか? その間は絶対に手を出しません。 大家と店子でもありますから」


それは確かに魅力的だ。

だがやはり、急な展開に頭がついていかない。


「……なんで私?」

「飲んでて面白かったからですかね。 顔も結構好みだったし」


もの凄く杜撰な感じでそう言った後、ちょっと怒ったみたいに「もうそういうのは聞くな」と低い声で言って、温くなってしまったビールを煽る。



「…………聞きたいなら、話しますけど。 そういう感じになっていいなら」


「!」



私が狼狽えたことで、不機嫌そうだった鶯谷君は急に楽しそうな顔になって距離を縮めてきた。


「いや、あの……ええと」

「聞きます? わかりやすく口説く感じになりますけど?」


なんだか固まってしまって動けなかった。

……恐怖心からではない。

多少なりとも恋愛経験がある私だ。

流石にこの動悸がなにかわからないほど、自分の気持ちに鈍感じゃないのだ。


そしてそれは、滅多に無いことだと知っていた。



…………形としては流された風だがまぁ、仕方ない。



私は選択として『同棲』を選び、私と鶯谷君は結婚を前提にお付き合いすることになった。


婚活を始める前に、相手が見つかった。

幸運と言えなくもない。


次の日から鶯谷君は、精力的に私の部屋の物を自分の部屋に移動させた。

……片付け、できるじゃないか。




外堀として協力する予定だった筈の新谷さんは、既にお手付きになってしまった事に驚愕し「鶯谷さん怖い……」と恐怖心を露にしたが、現在とてもご機嫌である。


「えっ、洗濯機とテレビも貰っていいんですかぁ~!」

「いいよ、中古で気にならないなら」

「チェストもいるならあげれば? 新しいの買おう」

「あ、貰えるなら欲しいです~♪」


チェストはデザインが可愛くて気に入っていたのだが……「二人分の服を入れるには小さいでしょ」と鶯谷君に言われて納得し、置いてくことにした。



新谷さんが気に入ったので、仲介の不動産屋を通して大家と交渉し、来月からは正式にこの部屋は新谷さんの部屋になる。



「次は結婚だね、渚さん」

「え、それ早くないすか?」

「だって子供欲しいって言ってたじゃん」

「まぁ言ったけど……」

「……暫くふたりでいい?」


その言い方に含みを感じ、鶯谷君を小突くと笑ってた。



鶯谷君は私を『一生楽しく暮らせそうな相手』だと思ったらしい。



実際はそんなに甘くないと思うが。

なんせ結婚式では神父が『病めるときも、健やかなるときも』とか言うのだ。


そう言うとやっぱり鶯谷君は笑ってた。


「大丈夫じゃない? 渚さん、責任感はあるから。 生活を続けるのって、愛情と責任感でしょ」

「……愛情もあるよ? まぁそれなりに」

「うん、これから増やして」



結婚の話はとりあえず先送りにして、次の日曜はチェストを買いにいく約束をした。


二人分の服が入るやつを。


閲覧ありがとうございます!


これで本編完結です。


機会があったら鶯谷君の元カノとか書くかもしれません。高井戸もあまり動かせなかったし。


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