大河内さんのお友達
居酒屋のテーブル席に座った私達は、当然ながらまず酒を注文した。
新谷さんだけなんかこう名前の長いやつ。
おお……女の子らしい。
しかも一杯目で赤くなり「三杯位しか飲めないんです~」と言い、二杯目はオレンジジュースを注文した。
既に私と鶯谷君は三杯目のビールを注文するところだ。
……女の子らしい!!
女の子らしいぞ!新谷さん!!
「今日は……っていうかいつもありがとうございます、渚先輩!!」
「気にすんなよ! ……残業代も出てるし無問題!」
そう言ってチラッと鶯谷君の方を見ると、目が合ってニヤッと笑われた。
なんかムカつくので礼は言わないことにした。
「私、いつまで経っても仕事できなくて……」
「新谷さんは仕事ができない訳じゃないよ。くっそ遅いだけで」
それあんまりフォローになってねぇわ、鶯谷君……
シュンとしてしまった新谷さんの為に、自らの生き様を暴露してあげることにした。
「 大丈夫大丈夫。 私が新人の時はもっと酷くて『創立以来No.1真面目系ダメ社員』という称号を貰った程だよ?」
それに比べればなんてこたない。
ちなみに『真面目系ダメ社員』なのは、それでも休まず、辞めずに出社していたからだ。
新人の中にはさっさと辞めてしまう人も勿論いる。できないのに続けた私、偉い。
……まぁ一人暮らしに憧れて、さっさと部屋を決めてしまったことが一番の理由だが。辞めたら家賃、払えないもん。
その事を話したら更に感心された。
新谷さんは実家暮らしらしい。
「一人暮らし素敵ですよね! 今私も部屋探してるんです~♪ まぁ、お金も足らないんですけどね……」
「なら職場から近いワンルームとかどう? 俺、心当たりある。 今すぐは無理だけど」
「えっ! 本当ですか?」
「なんだなんだ鶯谷君。 アンタいつから不動産屋になったんだ」
「知り合いの部屋なんですよ。 引っ越すらしいんで、仲介業者と上手く交渉すれば敷金礼金カットできんじゃないかと」
「「ほぉ~」」
優秀だなぁ、鶯谷君。
そのまま割とどうでもいい話を小一時間程したところで、新谷さんが「そろそろ帰ります」と言い出した。
時間はまだ21時。
親が厳しいらしい。
「だから家を出たいんですよ~」
「あ、じゃあ俺途中まで送ってくわ。 ちょっと仕事の事で話もあるし……」
「あ~、じゃあ私も」
「帰る」と席を立とうとしたら何故か鶯谷君に両肩を掴まれ、椅子に無理矢理座らされた。
「大河内さんはここで待ってて。 俺まだ飲み足りません。 直ぐ戻って来ます」
「え~……そう……? じゃあ……お疲れ、新谷さん」
「あ……はい、お疲れ様です……」
新谷さんは鶯谷君に何を言われるのかビビっている様子で、若干挙動不審になりながら、悠然と歩く(歩幅を合わせようと言う優しさ皆無)鶯谷君の後ろを早足で付いていった。
…………告白、とか?
チラッとそう頭に過ったが、『告白であの態度はねぇだろ』……と思い直す。
(いや、だがツンデレならばわからない)
考えてみればあのフォローもそんな気がしてきた。部屋も探してあげるみたいな感じだったし。
歩幅を合わせようとしないのも、緊張からかもしれない。
(そうかぁ……鶯谷君がねぇ……)
仕事は遅いが頑張り屋で素直な新人の可愛い女の子と、チャラい見た目の真面目でデキル新人中途採用。
ある日新人ちゃんは彼の担当事務となる。できないながらも頑張る新人ちゃんに彼は心惹かれ…………
(……みたいな? みたいな?? ふたりともそれなりに美人さんだからな! スゲー、ドラマみたいだ!)
なかなかときめくシュチュエーションだ。ベタだけど。
なんだよ~!
教えてくれれば相談くらいは乗ってやったのに~!!
(いや、これから相談する気に違いない……ワザワザ待たせているくらいだ)
ソワソワしながら鶯谷君を待つ。
もしかしたらもう告白しているのかもしれない。
だとしたら相談じゃなくて報告だな。
入ってくる人は少ないが、ちらほら帰る人達がいる時間だ。
入り口のセンサーがピンポンとなる度そちらに目をやるも、帰る客だったパターンが多い。
そんなことをしていたら、入ってきた客と目が合ってしまった。
「……あれ?」
「……あっ」
それは2年程前からぱったりと会わなくなった、男友達の高井戸 久だった。
「おおぉ……偶然! なんだよ! 一人か?!」
「いや、連れがいるんだけど、ちょっと中座……つーかいいの?」
高井戸こそ、後ろに明らかに連れと思われる人達がいた。
しかも5人位。
「あ、すんません! 超久々の友人に会ったんで今回は俺抜けますわ!!」
高井戸は後ろの人達にそう言って向かいに座った。
……相変わらずマイペースな奴だ。
害意がないせいか、皆に好かれ、なんとなく放牧されるのが高井戸の特技である。
連れの人達も「しょーがねーなー」「高井戸だからなー」で済んでしまっている。
「いや高井戸、連れいるから」
「男? 何、カレシ? 紹介してよ! ナギにカレシとか、ウケる!! 是非仲良くなりて~」
「ウケるたぁ失礼な!」
「だってナギ、『三次元は二次元を超せぬわぁ……』とか言ってたじゃん」
「まぁ言ったな、うん。 由々しき問題だから…………あ、つーかカレシじゃない。 職場の人」
高井戸は一番仲の良い男友達で、付き合いが長い。高校時代のバイトで知り合ってからだ。
高学歴フリーターを長期に渡りしていた不思議さんで、私の中で賢い人枠に入らない賢い筈の子だ。
馬が合うので付かず離れず頻繁に遊んでいたが、30手前で彼がようやく就職したら、忙しくて会えなくなった。
「なに、狙ってるなら流石に邪魔だから消えるけど?」
「馬鹿な。 だが消えろ。 これから恋愛相談を聞くことになってるんだ」
「ナギに恋愛相談!? ヘソで茶が沸く! ダメだわそれ面白すぎだろ。 その人見てから消えるわ」
「まぁいいけどさ……余計なこと言うなよ?」
「余計なことって何? 一時期『ライダーのガワと結婚したいわ~』とか言ってた事とか? そういやあれまだ好きなの?」
「いや今はガワはいい。 でもカッコいいけど」
そう、一時期ライダーにハマっていた私は昭和から平成に至るまで全てのライダーシリーズを網羅し、最終的に『2号のフォルムが最高』という結論に達していた。
…………ヤツは私を知りすぎている。
鶯谷君とはかなり仲良くなったとはいえ、互いの性癖(※直接的な意味ではない)を知り尽くした高井戸に、それを暴露されるのは些か……いや、かなり恥ずかしい。
ガワについてはまだいいが、中には黒歴史や実際の恋愛体験も含まれている。
高井戸は別に口が軽い訳ではないが、何気に聞き出し上手の鶯谷君である。
うっかり弱味を握られて『大河内さん、俺弁当食べたいです』等と言われたら作らざるを得なくなるだろう。
弁当とか、くっそ面倒臭い。
そうこうしてたら、鶯谷君が戻ってきた。
閲覧ありがとうございます!
はい!5話で終わらなかった~!
だが想定の範囲内だ!(キリッ)
なんか書いてたら楽しくなってきちゃったので、自分の為に書きます。
ブクマ少ないけど別にいい。