表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

お仕事はお金を稼ぐ為のものです

タグに『オフィスラブ』ってあるのにこいつら仕事してねぇじゃん……って思ってのお仕事回。

鶯谷君とはそんな感じだが、なにも遊んでいるばかりではない。

月によっても違うが、当然五・十日や〆日、月末はそれなりに忙しい。


またも新谷さんが悲鳴をあげた。

幸い今回は熱は出していない模様。


「た~す~け~て~! 渚先輩ぃぃ~! た~しゅ~け~てぇぇ!!」

「う~ん、私は構わないんだがねぇ……」


社内では経費削減、人件費は極力削る流れにあり、むやみやたらと残れない。

サービス残業はしたくない。絶対。


だが新谷さんは要領が悪いけど真面目な子なので、手伝ってはあげたい。

自分の分の作業スピードを上げ、明日に回せる分は明日に回す。

そうすれば30分位は業務時間内に手伝ってあげれるだろう。



後輩達には『大河内さんは甘いよ!』とよく言われるが、同僚や先輩達には言われない。

何故なら新谷さんは確かにできないが、それでも入った当初の私よりは遥かに使えるのだ。


40間近で初めて妊娠し、『子育てに専念したい』と退社した先輩の吉成さんからは、送別会の際「大河内を一人前にできたんだから、子育てもしっかりできる気がするよ……」というありがたいお言葉を私が頂戴すると、周囲から拍手が沸き起こり、当時の吉成さんの苦労を皆が涙ながらに労ったことは記憶に新しい。




「いいですよ、そんな頑張らなくて。 能力の安売りはよろしくない」


頑張っている私に水を差す輩が現れた。

鶯谷君である。

なんだ、よくわからんこと言いやがって。


「そういう訳にはいかんよ。 っつーか一番困るの鶯谷君だからね?」

「え、俺の為に頑張ってくれてるんですか?」

「えぇそうですとも。 わたくし大河内、常日頃奢ってくださる鶯谷大明神の為に頑張っておるのですよ? だからフラフラしとる暇があるなら仕事しやがれ、コンチクショウ」

「大河内さんこそ自分の仕事しなさいよ。 手伝いはあくまで手伝いでいいっつってんです。大体あんまりスピードを上げてミスってたら元も子もないでしょうが」


呆れた様にそう言うと、鶯谷君は部長の所へ行ってしまった。


なんだよムカつくなぁアイツ。


そうは思ったが不安になって、ちょっとやっつけ仕事になっていた書類を見直すと……桁が一桁間違っていた。


(……ああぁぁっぶねぇぇぇぇ!!)


急激に血の気が引く。

多分課長に出した段階で気付かれるミスではあるが、もしコレがウッカリ通ってしまったらと思うと洒落にならない。

何度か見直したが他にミスはないようだった。だが逆に、そこだけ間違ってたら気付き難いかもしれない。


(でも新谷さん、このままじゃ終わらないよなぁ…………)


ウチの職場では暗黙のルール的に、他の人の仕事の手伝いに関して残業申請は行えない。できるのは上司から打診があった時だけだ。


(サビ残はしたくないが……仕方ないか)


そう思って作業スピードを通常に戻し、自分の仕事に取りかかった。

悔しいが、鶯谷君の言う通りだ。先ずは自分の仕事をしっかりやらねば。





就業時間間際、部長が何故か席までやって来た。


「大河内さん、新谷さんの仕事手伝ってやってくんない?」


サビ残を覚悟していた私に朗報。

残業許可が出た。


「はい! 喜んで~」


私の返事に部長は「居酒屋店員かよ」と突っ込みを入れつつこう話した。


「君が入った当初とは違って今は残業にうるせえけどさ、新谷さんが一人前になるまでは適当にフォローしてやって。 私に一言言ってくれればいーようにしとくからさ」

「え、いいんすか部長」

「いいもなにも当然の権利だし……頼んますわ~大河内先生」


部長の話によると、鶯谷君が部長に『大河内さんを借りたい』と言ってくれたそうだ。


更に

『新谷さんに4時間残業さすのも、大河内さんを借りてふたりに2時間残業してもらうのも、人件費は大して変わらない』

『効率と電気代を考えたら安上がり』

……みたいな事も言ってたらしい。


実際、高卒の私と大卒の新谷さんの給料は、おそらくさして違わない。

雀の涙程度に私が高い位だろう。



「サビ残しようとしてたんだろ? むしろ気付かなくてごめんな~」

「…………いえ」



いつもの様には軽く返せなかった。



自分が物凄くできなかったから、そのフォローを先輩方がしてくれたおかげで今の自分がある。新谷さんは頑張り屋さんで可愛い後輩。

とはいえ、私だって全てを納得して手伝っている訳でもない。


部長の言う通り、私が新人の頃はもっと気軽に残業ができたから、迷惑はかけたが先輩方には当然賃金が発生してた。


ずっと長く働いているのに、月収がほぼ同じの新谷さんのフォローを私が頑張ってやって、全く賃金が発生しないなら……働いている意味ってなんだ。


そのことに意味がまるでないとは言わないが、お金はリアルな問題であり、ひとつの価値基準でもある。



『能力の安売りはよろしくない』



(なんだそれ)


評価されてる。


しかも評価が反映されるように配慮してもらえた。


なんだそれ、嬉しいじゃないか。


自分でも気付いてなかった『できなかった過去』とか『高卒』とか『馬鹿である』とかの引け目に気付かされた。


部長も言ってた通り、『当然の権利』なのに。


日本人的な美徳に引け目や卑屈さを隠していたのだ。……あざといエエかっこしいである。


(仕事に責任とプライドを持たねば……)


反省した。

多分、寝たら忘れるけど。


ただお仕事テンションは上がった。

テンションが上がりすぎて通常2時間はかかるであろう仕事を1.5時間で終わらせてしまい、鶯谷君に「折角残業代出るんだからそんなに張り切らなくても……」と言われてしまった。


……うるせぇやい。




時間が早かったので3人で飲みに行った。


残業代はこれで消えた様なもんだが、ちょっと嬉しかったので良いことにする。


閲覧ありがとうございます!


サビ残許すまじ。

まぁするけどね……なんだかんだで。


日本人的美徳につけこむ外資系の罠。


そして日本人的美徳は尊いが、それを押し付けられた時点でそりゃもう美徳じゃない。

美徳は任意だから美徳なのだよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ