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鶯谷君の生活

トンネルを抜けるとそこが雪国だったり、机の引き出しを開けると四次元だったり、トラックに引かれると異世界だったり……と色々あるが、私が目覚めるとそこは…………



ゴミ屋敷だった。



私の下には衣類の大量に入った4.5リットルゴミ袋×2。

寝心地は別に悪くはなかった。

『なんかガサガサうっせぇな』と思ったくらいのもので。


その周辺にも4.5リットルゴミ袋と段ボールの山、山、山。

そして部屋の一角には、本がまるでオーディオの音量を示す部分のように綺麗に積まれている。


例えて言うなら他が『洋画の山』ならば、その一角だけ『水墨画の山』みたいな。


リアルゴミ屋敷って初めて見た。

いや、あれだ。屋敷じゃないから『汚部屋』ってやつか。


でも不思議と臭くはない。

二日酔いで鼻がおかしくなっているのかな?と思った私だったが、その答えはすぐに出た。




(もしかしてここは鶯谷君家かな?)


もしかして、とは言ったもののそうでなくては困る。

そうでなくては『なんで鶯谷君と飲んでたのに他の人の家にいるんだ』という話になってしまう。

そんなの益々訳がわからんだろうが。


まぁ、ベッドに一緒に寝ていた訳でもないし、服も着ている。

ストッキングは電線しているが、どっかに引っ掛けたんだろう。


間取りは1LDKだろうか。

リビングの一角にいる私は、まだ酒の残る身体をフラフラさせながら立ち上がった。


「う、ぉぅたー…………」


ヘレン・ケラー気取りでそう呟き、壁で仕切られたキッチンに水を求めて歩く。

キッチンには冷蔵庫とレンジ、そして電器湯沸し器。

その他に調理器具は一切なく、棚に積まれているのはカップ麺とチンするご飯、インスタントのお味噌汁等。

そして紙皿や紙コップ、割り箸。

……鶯谷君の生活が窺い知れる。


不躾だとは思いつつも冷蔵庫を開けると、その中には卵と納豆、栄養ドリンク、水。……それしかない。


ゴミ類はきちんと分別してあるあたり……ずぼらなんだかなんなんだか。

道理で臭くない訳だ。




キッチンは半オープンキッチンというか……三面を壁に囲まれてはいるが、正面がガッツリ開口部となっており、その向こうにカウンターテーブルがついている。

2杯目の水を飲みながら、開口部からリビングを見渡す。


ソファーとテーブル、テレビ台に置かれたテレビ。それ以外の家具は無いようだが床にやたらと物が多い。

物っていうか4.5リットルゴミ袋と段ボールの山、そして本の山な訳だが。


テーブルの上には数本のビールの缶とコンビニで買った幾つかのツマミの残り。


鶯谷君が昨日着てたスーツはしっかりハンガーにかかっているが、Yシャツとネクタイ、靴下は床に散らばっている。


床には物が溢れんばかりなのにソファーには仕事鞄とクッション以外は何も置かれていない。


床はお掃除用ワイパーを使うのが基本なのか、意外と綺麗にしてある。

…………ただし、見えている部分……つまりテーブルとソファー周辺と生活動線部分と思われるところだけ。




泊めてくれたお礼に食事でも作っておこうかと思えど、卵と納豆しかない。

とりあえずお水のペットボトルを冷蔵庫に戻し、部屋の主を探す。


おそらくリビングの奥にある扉は寝室だろう。

そこにいるに違いない、とキッチンを出て扉に向かうと後ろから呻き声がした。


……鶯谷君はパンイチ(※パンツ一丁)でカウンターテーブルの下に転がっていた。




「…………身体が火照って涼を求めた結果、あそこにいきついたみたいです」


頬を若干赤くし、顔をしかめながら鶯谷君はそう言った。

既にパンイチではない。ゴミ袋の中から取り出したTシャツとハーフパンツを着用している。


「男兄弟がいるので慣れているから、別にパンイチでも構わないのだよ? まぁ君がブリーフ派やブーメランパンツ派ならば、流石にちょっと遠慮してほしいところだけど」

「そういう問題じゃない……っていうかアンタも大概無防備ですよ? いい歳の女性が気軽に独身男の部屋に入るなんて。 そんなんだから結婚できないんです」


これには私もカチンときた。

酔っ払っていたとはいえ、安全かどうか位はわかる。

事実、私は今まで男友達の部屋に何度か泊まった事があるが、なんかあったことは一度もない。勿論泊まる友人は選んでいる。

なんかありそうになったのをお断りして気まずくなったことはないこともないが、強引にヤろうとする輩は大体わかるっつーのだ。


「みっともなく彼女への未練がましい愚痴を長々聞かせる相手とヤる程、私はボランティア精神に満ち溢れてないわ! 自分こそこんな汚部屋に住んでるからフラレるんだ!!」


私の一言に、鶯谷君は「ぐっ」と声を漏らしてテーブルに突っ伏した。

どうやら痛いトコをついちゃったらしい。


突っ伏したまま動かなくなった鶯谷君を、横にあった昨日のツマミのスルメでつついてみる。


「あの~…………ごめんねぇ?」

「…………いいんです。事実ですから……」


事実らしい。

まぁ引くわな。こんな部屋引くわな。


「でも片付けりゃいいことじゃないの?」


そう言うと鶯谷君はつついていたスルメを、バッと奪うように口に入れて咀嚼しながら立ち上がった。

なかなかワイルドだ。

オヤツのジャーキーを目の前に、『よし』と言われたゴールデンレトリバーみたいで。


口の中のスルメを飲み込むと、鶯谷君は我が意を得たとばかりに強い眼差しで「そうなんですよ!」と言った。

そして彼は続ける。


「アイツはただ単に俺と別れたかったんです! 婚活してもっと条件のいい男が見付かったから……それを責める気はありませんよ!? それを隠して『都合よく俺のせいにされた』事が許せないんです!!」

「おぉいぇ……」

「だからなんなんすかその返事!」


だから婚活の話で嫌な顔してたんかい。

……そう言えばそんなこと言ってた気がする。




鶯谷君はプライドが高いみたいだ。

彼女への未練というか、『自分に非がある』と言われた事がとにかく許せないんだろう。

汚部屋に住んでるのは事実の癖に、図々しいやつだ。


そう思ったが、それは言わないどく。

頭は悪いが空気は読めるのが私、大河内さんの良いところだ。


「まあまあ……グダグダ言わず、片付けようよ鶯谷君。泊めてくれたお礼に手伝ってあげるからさぁ」

「いや、いいです。俺別にこの部屋で困ってないんで」

「んえ?この部屋で?」

「案外合理的ですから。ちゃんと袋毎に分類してあります。しまうのって面倒じゃないですか、中味見えなくなるし。 段ボールの中味は1年後、出さなかったものはそのまま捨てます。 出した物はこっちの段ボールに入れてます」


…………問題ないらしい。

問題があるのは彼の合理性だろうが、他人様の生活に口を出すほど野暮ではない。


「あ、そうすか」とだけ言ってその話は終わり、泊めてくれた礼を述べて家に帰った。




鶯谷君こそ、婚活でもしないと結婚できない気がしたのは秘密だ。

閲覧ありがとうございます!


あ、これ5話じゃ終わらない流れだ。……な2話目。


恋愛が欠片も生まれてない……


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[良い点] >ヘレン・ケラー気取りでそう呟き 一瞬 (。´・ω・)? っておもった後に吹きましたww
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