それぞれの答え合わせ
間咲正樹様、瀬川雅峰様からレビューを頂きました!
お二人ともありがとうございます!♪ヽ(´▽`)/
告白の導入として、渚さんに婚活の話を軽く振ってみる。
勿論婚活などしていないことは知っている……というかあれだけ俺が一緒にいてできるわけがない。
全く俺の気持ちに気付いていないと思っていた渚さんに、先程話を振られて驚いたが……婚活の話から更に『嘘』まで見抜かれてしまう。
嫉妬に気付いてほしいと思っていた俺だったが、いざ見透かされると凄く恥ずかしくて、おもわず顔を背けた。
「……当たり前でしょ。ちょっと考えればわかる。……ふたりになりたかったんです」
営業である俺が名刺を切らすなんて真似、するわけない。
恥ずかしくはあるが、俺の気持ちを感じてくれていたのは嬉しくもあり、自然と笑みが溢れた。
「…………全然気づいてない風だから、どうしたもんかと思ってたんですけどね。 意外と話が通じて今ビックリしてます」
そう言った俺に返ってきたのは更に嬉しい言葉。
「そりゃアレだよ。 私だっていい大人だよ? わかるよ。……それに、私も鶯谷君が話してくれるの、待ってたんだからね? 高井戸とは超久々だけど、それよりも」
俺の告白を待っていた……だと?!
(今のってそういうことだよな?! 流れ的に!!)
「じゃあ……返事は期待してもいいんですね?」
唐突な歓喜のあまり、声が震える。
ーーしかし、渚さんは何もわかっちゃいなかった。
しかも俺は何故か新谷さんが好きなことにされていた。
「何故誤解を受けないように、アンタをこの場に残し『仕事の話』と明言したにも関わらず、そんな誤解ができるんですか! どれだけ妄想力豊かなんです?!」
「ええぇぇぇぇ?!まさかの勘違いですか?!……でもその割に話が合ってたじゃんかぁ~」
そう、その割に話が合っていた。
それが恐ろしい。何でこんなことになったのか意味がわからない。
こっちは予め変な誤解を受けないようにしたつもりだったが……渚さんの思考回路を舐めていた。
「……とにかく、新谷さんの事はなんとも思ってません。 思いの外時間を食ったのは、新谷さんからの質問が多く、話が長引いてしまったからです」
「なにが嘘だったの?」という渚さんの質問を受け、この際ちゃんと答を見付けてもらうことにした。
「それは…………ちゃんと考えればわかります。5分時間を与えますから、ちょっと考えてみてください。 わからなかったらこの話は終わりにしましょう」
当然終わらす気などない。
どうせわからなかったら渚さんはごねるに違いない。そうすれば完全にイニシアチブを取れる。
案の定食い付いてきた素直な渚さんに、頬が緩んだ。
「…………そんなに知りたいなら、教えるのは吝かでもありません」
初めて飲みに行ったときと同様に、コンビニで酒とつまみを買ってから俺の部屋に向かう。
部屋に入ると渚さんは物が無くなっていることに驚いたようだ。
「どうしたん、コレ……」
「捨てました、ほとんど全部。仕分けるの面倒だったんでほぼそのまま捨てましたね。まぁ袋に入れた時点で多少仕分けてあったんで」
(アナタと暮らすために片付けたんですよ)
「……家具でも買うの?」
「買うかもしれませんね、この先」
(アナタの荷物を運び入れたらですかね)
理由を脳内で答えると、我ながらちょっと気持ちが悪い。とんだ妄想野郎である。
まぁ現実にしてしまえば問題はない。
「どうします?さっきの答え聞きます?」
「ああうん……」
缶ビールを開けながら俺は、そう言ったものの……渚さんの気持ちももう少し聞いておきたいので、話を変えることにした。
大事な話は良い流れを作ってから。
そして相手の思いや心情を汲み取ること。
営業の基本だ。
「ところで渚さん、なんで婚活しようと思ったんです?」
渚さんは少しだけ悩んで、
「う~ん、30過ぎたから? 周りも結婚してくし、私の仕事はいくらでも替えがきくしねぇ……子供は嫌いじゃないから、産むならもう結婚しといた方がいいかな~と」
「打算的と思う?」……そう彼女は俺に聞くが、そんな事は思わない。
未来に対して漠然と不安を抱き、世間的に一般の尺に自らを合わせようと思うのは、当然の事だ。
思春期の悩みとは違い、この年齢でのそれはもっとリアルな逼迫感がある。
だからこそマンションを買った俺だが、それも稼ぎがそれなりにあったからであり、いくら大河内さんがしっかりしているとはいえ、早くから『一人で生きる』ことを想定して貯蓄でもしてない限り彼女には難しいだろう。
ましてや女性ともなると、出産の不安はつきまとう。
産んだら産んだで、日本の法制度的にはシングルマザーに大分優しくなったとは言えど、婚外子の出生割合は低い上、保育制度は整っているとは言い難い。
シングルファザーに至っては女性よりも尚子育てに酷しい。
『少子化』を問題にしながらも、現実的に日本で子供を産み育てるには『結婚していることが望ましい』という無言の圧力のある社会なのだから。
「いえ、どちらかというと現実的ですね。俺もそう思いますよ」
渚さんの不安は理解できる。
ただ好みは未だによくわからない。
「『賢い人』云々は?」
「どういう人が自分に合うとかわかんないし。 考えてみれば賢い人が理想だったな~と思って」
「その『賢い』の定義もよくわかりませんけどね…………」
高井戸氏はあんなノリではあったが賢そうだった。
職業で賢さをはかれる訳ではないが、名刺を見るとそれなりの会社の専門職……渚さんの話からして30前で初めての就職ということを鑑みても、彼はそれを差し引いても会社的に獲るべき人材だったということになる。
「あの人はどうです?高井戸さん。 なかなか察しはよさそうでしたよ」
「へぇ、そう見えたんだ。 『賢い』筈なんだけどね~、誰にでも懐っこいしあんな感じだから私のイメージする『賢い』感じではないんだよねぇ」
渚さんの『賢さ』はあくまで『イメージ』だった。
……やっぱり渚さんは渚さんである。
結局初めて飲みに行ったときと同様に戦隊ヒーローで例えられた。
だが全く問題ない。
「ふぅん…………ならイケる気がしますね」
「え、なになに」
「多分ね、あの人は俺のついた嘘わかってますよ」
「高井戸が?ええ?」
そこまでいって、渚さんはようやく俺の吐いた『嘘』がわかったようだった。
だがそこで満足されては困る。
ちゃんと俺の気持ちに気付いてくれないと。
「……そこで納得しないでくださいよ。良いですか? よく考えてください、その後の俺とのやり取りを。それまでスルメはお預けです」
「お預けとか犬かよ。 大体咀嚼は頭の働きを良くすると聞いたことがあるぞ? むしろ進んで食わせるべき」
「そういう反論の時だけ頭が回りますね。 そういや渚さんて、食うの早いですもんね。 じゃあちゃんと咀嚼を行ってください」
スルメを俺の手から奪い、咀嚼を行いながら考える渚さんが答に気付くのを少年の様にドキドキしながら待つ。
だがそれを表に出してはならない。
それは俺がそういう性格だからだが、渚さんの求める『賢い人』像とも一致しているような気がするから。
答を見付けたらしい渚さんは、あっという間に真っ赤になった。
今度は俺の方の答え合わせといこう。
「戦隊モノで言うなら俺は割とブルーかブラックだと思いますけど、どうでしょうか」
閲覧ありがとうございます!




