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賢い人が好きだけど  作者: 砂臥 環
鴬谷君side

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高井戸氏とか感覚の違いとかキウイとか

新谷さんを駅まで送ったが、彼女が根掘り葉掘り色々聞いてくるもんだから戻るのが遅れてしまった。


女の子はどうしてあんなに恋愛話が好きなのか。


そこひとつ挙げても大河内さんは異色と言える。

大河内さんはむしろ、恋愛話をしている筈なのに何故か明後日の方向に逸れていく。



大河内さん曰く、『美女と野獣』の王子は呪いが解けない方が断然『もふもふしてて魅力的』だそうだ。


その話をしてた日は丁度雨が降っていて、大河内さんは「ああでもこんな日は獣臭が気になってしまうかもしれない」と真剣に悩んでいた。


そんな彼女も可愛いと思ってしまったあたり。




店に戻ると俺の席には知らない男が座っていた。


しかも大河内さんは親しげにそいつと話している。


「…………大河内さん、どなたですか」


平静を装っていたつもりが、思いの外苛立ちを隠せていない声に自分でも驚く。


「おっすオラ高井戸!大河内 渚の友達だ! 失礼、ここアナタの席でしょ?ささ、どうぞどうぞ!」


『大河内さんの友人』、高井戸氏は彼女の友人らしいノリで自己紹介をしたが、然り気無く俺を気遣う様子が見てとれた。


名刺交換にも応じない俺の不遜な態度になにか察した様だが、嫌な顔ひとつせず鮮やかにその場を離れる。


…………なかなかできた男だ。


高井戸氏の態度や大河内さんの様子を見ても、ふたりが『友人』であることはまず間違いないだろうが……ああいう男が近くにいたという事実はそう軽くはない。

一緒にいたのが大河内さんでなければきっと、酒を酌み交わしあまつさえ連絡先を交換していた気がする。

彼にはそんな気安さと魅力がある。


(大河内さんのハードルの基準値は彼かもしれないな……)



それはそうと『ナギ』て。

そういや新谷さんも『渚先輩』って呼んでたし。


俺も名前呼びしたいのでこれに乗じる。

甚だくだらない嫉妬だが、これに気付けばいいのに……と思う。



やっぱり高井戸氏は渚さんの友人の様だ。


完全なる友人。


俺と渚さんの間に明確な考え方の壁が存在することを強く認識する。


自分の思考によって、渚さんの考え方そのものに対し重大な誤解があった。


彼女は『男友達』を『男』であり『友達』であるときっちり理解している。

性別的な垣根を越えた友情など存在していないのだ。


この事によって高井戸氏との関係に不安はなくなったが、同時に違う不安と焦りが発生した。



俺は今彼女の中で何枠に選別されているのか。



(早々に想いを伝えよう……)


友人のフリをしたまま関係を深めていくのは愚策だ。

手を出した時点で終わる可能性が高い。



気持ちを伝えた上で、計画通りに囲い込む……多少の順番が変わっただけなので問題はない。


今日このタイミングで高井戸氏に会えたことは、俺にとって僥幸と言えた。


(さぁ、どう話をもっていこうか……)


ムードを高めて存分に意識していただいてから告白をすべきだろうか。

いや、この女性に俺の今までの経験を持ち出しても無意味な気がする。

やってみたところでムードを高める前に挫折するのがオチだろう。なにしろ彼女は未知の生物であり、ムードクラッシャーなのだ。


だが高井戸氏のおかげで、俺が彼へ嫉妬している感じは存分に出すことができた。

気付いてくれているかは謎だが、それを理由に告白をしてしまおう。


高井戸氏には色々助けられている。

全て上手くいったら改めて紹介してもらい、名刺のことを謝罪して仲良くしよう。勿論牽制の為でもあるが。



(うわ、でも告白をするとなると……なんか緊張するな……)


考えてみれば、本当に好きになった自覚をもって告白をするなんて初めてだ。


俺には渚さんと違って『女』で『友達』という感覚は持ったことがない。

友達面した女の子と、一定の流れの中で恋人になるのが常だった。

告白をされてお断りした子の中には『お友達ではいてね』なんて事を言う子もいたが、俺にとってはそりゃ無理な話だ。

とりあえずその場は『うん』と言うが、元々友達だなんて認識はない。


俺の中では『女』と『友達』は同時に存在し得ない感覚なのだから。



緊張からモダモダしているのを隠しつつ、不機嫌なフリをしながら高井戸氏の話を意味なく延ばして酒を飲む。


高井戸氏が、どうやら渚さんと同じタイプの考え方を持った人間であり、しかも彼の基準値が滅法低いことはわかったが……今は彼好みの米の炊き加減など、どうでもいい。


「ていうか高井戸の話はもういいよ。 それより鶯谷君は私になんか話したいんじゃないの?」


突然渚さんの方から話を振られ、心臓が跳ねた。


「あ、流石に渚さんでも気付きますか」


平静を装って返すが、本当は動揺している。


「流石にってなんだよ」


不貞腐れた様にそう一言吐く渚さんだが……いつも通りだ。

本当に気付いてるのか?


俺が年甲斐もなくドキドキしている中、マイペースにもやたら長い名前の『なんちゃらキウイサワー』を店員に頼む。


(なんでビールじゃないんだ?! ハイボールとかならまだわかるが!)


新谷さんが頼んでいたやつのキウイヴァージョンという、普段の渚さんではまず有り得ないチョイスに意味を求める。



なにかの暗喩だろうか。



キウイサワーがくると渚さんは瞳を輝かせながら、サワーに沢山入ったキウイをロングスプーンで掬って食っていた。


……どうでもいいけど、それサワーの意味なくない?


っていうか俺は馬鹿か。

暗喩なんて渚さんが思い付くわけないだろ。どれだけテンパッてんだ。


「キウイ好きなんだぁ。鳥のキウイも可愛いよね」


いや、可愛いのはアンタだよ!


『キウイ』と『鳥のキウイ』の部分を、『鶯谷君』と『素の鶯谷君』に脳内変換して萌えたのは秘密だ。


何度も実感している事だが、更に再認識。

……俺は大分ヤられている。確実に。

閲覧ありがとうございます!

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