鴬谷君と煩悩
『仮面ライダーV3のテーマ(多分)』を高らかに歌う大河内さんと共に俺は自宅へ戻った。
「フラれた位でなんだと言うんだ鴬谷君! V3こと風見志郎は両親と妹をデストロンに殺されてしまうんだぞ?!」
涙ながらにそう語る大河内さん。
風見志郎は確かに大変そうだが、俺は俺で大変なのだ。
…………今のこの状況とか。
俺の部屋。
目の前には大河内さん。
俺は今混乱している。
俺は見た目と違いチャラくはない。
しかも女友達などいたことはない。
なんで冷静になったんだろう……前後不覚位で良かったのに。
マンション入口の自動ドアの窪みに大河内さんはヒールを取られ、置いてあった観葉植物に軽くぶつかった。
観葉植物も大河内さんも何事も無かったように見えたのだが、部屋で向かい合って気付いてしまったのだ。
ーーーー大河内さんのストッキングが伝線していることに。
一気に酔いが覚めた。
別に足フェチだとか思ったことは今までなかったのだが……なんかこう、くるものがあった。
有り体に言うなら、勃った。
(うわあぁぁぁぁぁ!……ねぇわ!これはねぇわ!!)
それまで最早珍妙な生き物と意志疎通ができ、晴れて友達となったので家に連れ帰った……位の気持ちでいた俺だったが、その生物がホモ・サピエンス(雌)であったことを認識してしまった。
どうしていいかわからない。
っていうかなんで連れてきちゃったんだろう。
(そしてなんでついてきたんだ……)
無防備だろ、流石に。
それともOKってことなのか?
自慢じゃないが俺はモテる方だと思う。
それなりに恋愛もしてきたし、状況だけで言うなら似たような事はあった。
……ただその場合、相手に明らかにその意図が感じられたのだが。
今目の前の女が考えてること。
それがサッパリわからない。
大河内さんは寛いだ様子で缶ビールを開け、スルメを食っていた。
「しっかし汚っねー部屋だなぁ!鴬谷君よ。 アハハハハ、そりゃフラれるわ~。……人間顔じゃないんだぞ? 反省しろ!この残念イケメンが!! 世の中の清き童貞に土下座で謝れぃ!」
なんか酷いこと言われた。
然り気無く下ネタも含んでいるが、いやらしいことへの導入どころか萎えるタイプの下ネタだ。
おそらくこの人、『そういう気』0。
残念なことに俺の息子さんは、彼女の萎えるタイプの下ネタにも萎えることなく元気一杯だ。
寛ぐフリをしてYシャツの裾を出し、局部を隠しながら上着を大河内さんの足目掛けて投げつけた。
「大河内さん……誘ってんじゃないなら足を隠してください。ストッキングが伝線してます」
平然を装って俺もビールを開ける。
「お?おおいぇ~。なんだ、紳士だな! これからは『ジェントル・鴬谷』と呼ぼう。『ジェネラル・シャドウ』っぽくてなかなかカッコいいぞ、ジェントル」
「……誰がなんですって?」
ジェネラル・シャドウをググって調べたら『仮面ライダー・ストロンガー』に出てくる怪人の名前だった。
……もうライダーはいいッ!!
なんかもう馬鹿馬鹿しくなって缶ビールを煽り、ツマミを食った。
息子は元気なままだが。
大河内さんは、俺の動揺や煩悩や元気な息子の事など微塵も気付かず、居酒屋と同じ様にアホ発言を繰り返す。
次第にまた酔いが回ってきた俺は、あまりにも女を出さない大河内さんにムカついて、「乳ぐらい触ってやろう」と思い『彼女にフラれて寂しい』等と、柄にもなく甘えてみるという暴挙に出た。
「そうかぁ~、寂しいのかぁ~」
そう言って大河内さんは俺に手を差し伸べる……
と思いきや、繰り出される手刀。
「ライダーちょおぉぉぉぉっぷ!!」
「ふぐッ?!」
多分漫画とかなら『ズビシ!』みたいな効果音が入ると思ってしまったあたり、俺も大分大河内さんに感化されていたと言える。
っていうかまたライダーかよ!
いい加減しつこいわ!!
「なにが『寂しい~』だ! 甘えた事抜かすなこのクソイケメンが! 世の中の清き童貞に以下略!! 」
そう宣うと大河内さんは豪快にビールを飲み干し、やりすぎ感の強いCMみたいに「ぷっはーっ!」と息を吐いた。
その様は非常に漢らしい。
なんかもう、本当にどうでもよくなったと同時に、息子は完全に萎えた。
……ちょっとホッとした。
「……わかりました。アンタは未知の生き物だということが。俺の常識で括ろうとしたのが悪かったです」
「え、なに? UMAの話? いいねぇ~、嫌いじゃないよぉ~」
そのまま俺と大河内さんは何故かUMAの話をし、それなりに盛り上がった。
そして次の日気付くと、俺はパンイチで床に倒れていた。
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