5年後の答え合わせ
例のノートの件から2日。僕は困惑していた。
20××年9月8日:鷹野唯
え、誰? いたずら?
何と僕の残したメッセージに返事が来たのである。
いやいや、ちょっと待て。流石にそんなわけないだろう。冷静に考えたら、部員の誰かが部室に来て文芸部ノートを発見。そこに僕の書き込みを見つけ、「あいつ痛いなー(笑)」とか思いながらいたずらで返事を書き込んだと思うのが筋だ。
しかし、そんなことあるのだろうか。少なくとも昨日の放課後、部室にいたのは僕一人のはずだ。なら昨日か今日の休み時間にでも入り込んだのだろうか。
一昨日、僕はノートに書き込みを残した後、しっかりと元あった場所に戻している。そして、ついさっき読み終えた本を新たに蔵書としてしまおうかと思いロッカーを開き、ついでにノートも使ってやろうとページを開いて初めてこの事実が発覚したわけだ。
普段めったに部室に寄り付かない部員たちが、これまためったに開かれないはずの部室奥のロッカーをたまたま開き、偶然ノートを手にとり僕の書き込みを見つける。そんなことそうそう起こりうるものだろうか。
考えていたところで埒があかない。とりあえず、僕は返事を書き込んだ。
20×△年9月9日:泉浩介
いたずらではないです。そっちこそ、どなたですか?
そして、一昨日にやったようにノートを定位置に戻す。同じ条件を揃えて、もう一度返事が来るかどうか試すことにしたのだ。
― ― ―
翌日、ノートを確認すると返事が書き込まれていた。
20××年9月10日:鷹野唯
上に書いてあるでしょ? 20××年現在、2年4組の鷹野唯です。
なるほど……。
いよいよ超常現象が起こっている可能性を真面目に考えないといけなくなってきた。とは言っても、本当にこのノートが今と過去を行き来している確証は得られていない。どうにかして調べられないものか。
20×△年9月11日:泉浩介
これは失礼しました。20×△年現在、同じく2年4組の泉浩介です。
もし、本当に鷹野さんが5年前にいるのならそれを確かめてみたいと思っています。
何か良い案ありませんか?
結局、相手頼みになってしまった。
しかし、結果オーライだったと思う。彼女の回答はなかなかに冴えていた。
20××年9月13日:鷹野唯
こちらは土日だったので返事が遅くなりました。ごめんね。
なら、私がいつもこのノートをしまっているロッカーの上段の右奥に一冊文庫本を隠してみます。このロッカーを開ける人がめったにいないのは昔も今も同じだと思うしね。この文を読んだ後、探してみて、もし見つけたら題名をここに書き込んでください。そしたら、私も泉くんが5年後にいるって信じられそう。
PS.同い年なんだからタメ口でもいいよ?
僕はすぐに彼女が指定した位置を探しだした。すると驚いたことに、本当に一冊の文庫本が見つかった。
20×△年9月14日:泉浩介
名案だったね。正直驚いてる。
鷹野さんが隠したのはハインラインの『夏への扉』。タイムトラベル小説の名作だね。