君のためなら
ただ、そうであってほしいだけの夢なんだろうけど。
(じー。)
みつめるだけで癒される。
「なんて、かわいいのっ」
ほらほら、わたしだけを見て。
『ねえ、あの……』
うん、動くって素敵!
あわあわしててかわいい
「しーなはかわいいねぇ」
『あの、ほんとに、話を……』
「なぁにー?もう、かわいいねぇ」
このもふもふ具合がまたかわいい。
ああ、どうして動くようになったかはわからないけど
ただただ、ひたすらに愛を注ぐだけ。
「わたし、しーなしかいないからどこにもいかないし大丈夫だよ?」
ああ、そういえば、どうして動くようになったんだっけ?
……親友が亡くなって、ただひたすら泣いて、死のうとしたけども失敗したようだ。
起きたら動いてたんだよね。不思議〜!
『ちょっと、回想なんてしてないで、話をきいて』
うん、聞くからそんなに怒らないでちょっと抱きしめさせて
『あの、ボクは親友ちゃんから泣いてるだろうから最後の言葉を君に』
ああ、聞きたくない。辛い思いは嫌なの。
それでも、このくまのぬいぐるみは話し続ける。
『君が生きてて良かった。だいすき。君はヒトゴロシでもなんでもないんだよ。わたしが全てさらってあげる。って言ってたよ、泣かないで…』
ああ、しーなは確かに言葉を運んできたんだ。
わたしが言われたい言葉を。
本当に、あの親友は……
「『君のためならば何でもしてみせるよ』か」
ああ、これはしばらく死ねなさそうだね。
『ボクは君が死ねないために遣わされたからね、何度だってひきとめる。』
*
そしてある日、わたしは出会った。
結婚してもいいと思える人に。
そうして、しーなは動かなくなった。
この愛らしい、くまのぬいぐるみが
わたしを生きさせてくれて、出会わせてくれた。
何度死のうとしたってなぜがいつも失敗する。
それでも、やめられなかったのは、死のうとすることをやめたら、親友との繋がりが消えてしまいそうだから。
ああ、しーなは動かなくなった今もわたしを守ってくれる。
こころが壊れそうになる度に、つぶらな瞳がひかるから。
夢で親友と伝えてくれるんだ。
『君のためなら何でもしてみせるよ』って
ぬいぐるみって、そこにあるだけで癒されるよねぇ…
ほんと、すてき。
後にも先にも、ただひとりの親友へ。