「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」
「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」は黒く小さく臆病なトカゲ型の生き物です。
尻尾の付け根に髑髏型の模様があり、多くの場合包帯のような特殊な皮膚で体の一部を隠しています。
また全身にオレンジ色の斑点模様があり、ドクトカゲ科に近いように見えますが牙もなく毒もなく物理的な危険性は一切ないです。
しかしこの生き物はUFAの中でも「特定危険生物」に分類されます。
この生物はある条件を満たす人物の利き腕でないほうの腕に張り付き、皮膚に染み込むことでその人物に寄生します。
以下彼らが好む人物の条件です。
条件Ⅰ:想像力が豊かで自分の中に壮大な世界観を抱いている。
条件Ⅱ:自身を一般人とは違う特別な存在だと信じてやまない。
条件Ⅲ:詳しく知りもしないのに難しそうな言葉を使う、若しくは聞くのが好きである。
条件Ⅳ:自身に自信が持てず人前で堂々と振る舞えない。
以上の条件を満たす人物に「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」は好んで寄ってきます。
年齢層としては中高生の被害者が多いようです。
この生物が腕に寄生すると宿主はその部位から止めどなく謎のエネルギーを感じます。
この寄生による腕の外見的変化は起きないので寄生されているかどうかを見分けるのは至難の技です。
このエネルギーがなんなのか寄生された人物10名にインタビューしたところ上手く答えられない人、聞いてもないのに永遠とこのエネルギーがなんたるかを饒舌に語る人の半々に別れました。
饒舌に説明してくれる人も封印された力だとか悪魔と契約しただとかそれぞれ全く別の説明をしてくるため結局なんなのかはわかっていません。
「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」に寄生された人物は腕の疼きを訴えます。
ただ不可解な点として親密でない人物から心配される、または大勢の注目を浴びると急に平常通りの振る舞いに戻ります。
加えて宿主は人によりますが、黒い服装、派手なアクセサリーを好むようになります。
「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」は日光を嫌う様なのでその特性との関連性が伺えます。
この辺のセンスは宿主次第で周囲から評価される場合も卑下される場合もあります。
多くの場合は二、三年程度で腕の疼きを気にしなくなり「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」は別の宿主を探し出て行きます。
こうして彼らの寄生からは多くの場合早々に解放されるので被害者は周りから一時的な気の迷いだったと解釈されます。
しかしこの生物の危険性は五年以上宿主に寄生していた場合に発生します。
五年以上この生物に寄生されている場合に「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」は皮膚内から全身を覆うように成長し宿主の体を乗っ取ってしまいます。
この乗っ取りには痛み等の感覚が発生せず数日の間に体の乗っ取りは完了します。
体の乗っ取りが完了すると宿主の人格は消滅し元に戻ることはありません。
体を乗っ取った「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」はそれまでの宿主の記憶、感情を引き継ぎほぼ変わりなく生活しますが同族を体に宿している宿主に対して気持ち優しくなります。
彼らはこの様なプロセスを経て人間社会への進出を目論む傾向があるようです。
彼らが世界に蔓延し人類にとって代わる可能性があるのです。
唯一の希望として体の乗っ取りに成功した彼らの個体数はそう多くはありません。
現在の調査では日本国内において13匹程度しかいないようです。
体の乗っ取りを完了した一匹に確認したところ丁寧に教えてくれました。
彼らの名前も彼らが名乗ったものを採用しています。
しかし近年の高度なメディアの発展によってこの生物に寄生された人間のような人物が世間一般に広まりつつあり「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」に寄生されていなくても同じような行動をとる者も現れつつあります。
寄生されている人間と寄生されていない人間を見分けるのは困難です。
もしその様な人物があなたの前に現れた時は寄生されているのだと決めつけず優しく接してあげましょう。
その優しさがかえって「ソノ手二宿ル禁ジラレシ異形ノモノ」には有効で、きっとすぐに逃げ出してしまうのです。
あなたの側に現れた時は優しく接してあげましょう。