「すとーりーもーど」 「5.なびげーたー」
「で、その女の子は去っていった……ってことなんですね」
「は、はい」
「もてもて」
玄関先で出会った男の人、日野常磐さん。
私達は背の高い男の人に教わった喫茶店を目指して昼下がりの住宅街を歩いていた。
彼からもらったカードの喫茶店まではここから住宅街を抜けて、線路を超えて少し寂れた地元の商店街までいく必要がある。
それで何故か玄関先で出会った日野さんは私達に同行してきたの。
どうにも彼は私の家に訪れたメアという女の子を追ってここに来たみたい。
彼はもてちゃんについても何か知ってるみたいでとりあえず道すがら話を聞くことにした。
「君の頭の上の『もてもて』が連れ去られそうな時に大きなスーツ姿の男性が現れた、と」
「はい……」
「もて」
人と話すのは久しぶりだからなんだかぎこちない。
「……聞いた限りだと彼は『くびつり男爵』、私達が探している『UFA』の一種です」
「……くびつり? ……ゆーえふえー?」
「もてもて?」
彼の話す聞き慣れない単語に頭を掲げる。
UMAか何かなんだろうか?
「失礼しました、貴女には説明する必要がありますね」
コホンと息を付き、彼は話を続ける。
「『UFA』とは貴方の頭の上の『もてもて』のようにこの世界に実態を持たない不思議な生き物の総称です、貴方は以前あったことがあるはずです」
二つの疑問が頭を過り、一つ目が言葉になる。
「……え、もてちゃんも?」
「もて?」
「そうです、彼らは僕達の日常に潜む不思議な生き物」
日野さんはそういって私が二つ目の疑問を口にするよりも先にに両手を広げる。
広げた両手から泡のような赤い光がふきだしてくる。
「……なんですか、これ?」
「もて?」
「これも【UFA】、通称『ヒノトリ』」
日野さんは両手から何かをだしながらも表情を変えず淡々と話を続ける。
「彼らはこの世界に実態を持たないため写真や映像記録には映らず、条件を満たした人物しか彼等を認識することは出来ません。妖怪や妖精みたいなものです」
「そんなものが本当にいるんですか?」
「もてもて!」
「まぁ口で言うよりもみててください」
日野さんはそうつぶやいて向かい側から歩いてくる主婦のおばさんを指さす。
初老の女性のようで荷物が少し重そうだ。
マイバッグにはち切れんばかりの食材を詰めて額に汗を流しながら歩いてくる。
日野さんから湧き出ていた赤い光は一つ一つが固まり、まとまって、鳥のような姿になる。
その数は一羽でなく六羽程だ。
そして日野さんが合図した途端にその赤い鳥達は飛び立ち、主婦のおばさんの周りを滑空しだす。
日頃見かけない真っ赤な鳥達が主婦のおばさんを取り囲むように飛び交う。
見るからに異様な光景なのにおばさんは身動ぎ一つみせない。
反応がないことを悟ると赤い鳥達はおばさんの持つバックを抱え始める。
三羽はバックの持ち手を起用に足で掴み、残りの三羽はバックの下から羽ばたいて頭でバックを支える。
六羽が六羽必死の形相をみせていてなんだか可愛らしい。
おばさんは相変わらず鳥達に気付くことはないが、少しだけカバンが軽くなったのかさっきよりも明るい表情をしていた。
その明るい表情のまま私達の横を通り過ぎる。
通り過ぎ際に主婦のおばさんが、
「こんにちは」
と挨拶をしてきたけども、私は鳥達に見入ってしまっていて返事を返せなかった。
「どうも、こんにちは」
隣で無表情の日野さんが答えるのを聞いて私は我に返る。
私が気付いた時にはおばさんははるか後方にいて赤い鳥達も日野さんの元に戻ってきていた。
「わかりましたか、【UFA】は一般人には見えないけど【UFA】からこちらに干渉してくることがある。今『ヒノトリ』達が鞄を軽くしたようにね」
瞬きを二つして私は返答を返す。
「何だかわかりませんけど日野さんが超能力者だってことはわかりました」
「もてもて」
「はは、僕はそんな大したものじゃないよ、そもそもこの姿は借りているだけだしね」
相変わらず無機質な口調の彼は乾いた笑顔を私達にむける。
「借りている?」
「もて?」
「その話をすると長くなってしまう、今は君の身に起きた事を説明する方が優先だ」
日野さんがしゃべる側で赤い鳥たちは溶け込むように日野さんの中に帰っていく。
さっき私達が転びそうな時もあの鳥達をだして受けとめてくれたのだろう。
素性のわからない人だけど一般人でないことはわかった。
「……はぁ」
「もてぇ」
「君は珍しいことに『もてもて』を認識している、これは本来有り得ないことだ」
「そうなんですか?」
「もて?」
「そして君の家に訪れた『メア』という女の子、彼女は【UFA】を探し回収している」
「……なんのために?」
「もて」
「……これがわからない」
「……え?」
「もてもて!」
私達の様子をみて薄ら笑いながら彼は答える。
「そう怪訝な顔をしないでくれ、わからないから調べるているんだよ」
何だか馬鹿にされてるみたいで気に食わない。
「そんな顔してました私?」
「もてもて!」
「とにかく君は何かしらの条件を満たしその『もてもて』と話せるようになった、その上でくびつり男爵から案内を貰った」
「これはきっと意味のあることだ」
「は、はい」
「もて!」
「それならば【UFA】調査員として僕は君達を導く義務がある」
彼の一言を理解するのに少しだけ時間がかかった。
そもそも私は突然「もてちゃん」達に巻き込まれただけでこの人は関係ないはずだ。
何か事情を知っているのかと思えば明確な情報はこれっぽっちもくれない。
でももてちゃんみたいなのが一杯いて【UFA】と呼ばれることはわかった。
ならもしかしてマーニーも【UFA】だったのかな?
色々考えた挙句、日野さんの透かした笑みを思い出して私はこう答えた。
「……何言ってんだこいつ?」
「もてもて」
「口が悪いな、君は」
「そ、そんなことないですよ!人と話すのが久々なだけで……」
「もてもて!」
「まぁいいさ、丁度君達の向かう喫茶店は知り合いの店だ、案内するよ」
そういって日野さんは私達を先導する。
日野さんの知り合いの店と聞くと何だかまた変なところなんだろうけど、マーニーについてのヒントはきっと不思議な力を持つ彼に聞くしかない。
「……わかりました」
「もてもて」
私が俯きながら渋々承諾すると日野さんが私の前に手を伸ばす。
「な、なんですか急に?」
「もて!?」
私達が突然の手に驚いていると先程まで無機質な喋り方だった日野さんが急に力強くこう言った。
「……急いだ方がいいようだ」
私達はしゃべりながら歩いたからか私の家からでてしばらくした先にある線路の踏切前に来ていた。
昼下がりの踏切の向こうには人影が二つ。
一つは紫色の長い髪と青い軍服、先程の女の子「メア」。
もう一人は黒い長い髪、暖かくなり始めた今の季節に合わない首元隠すような襟元の伸びたコート、腰にいくつかジャラジャラとチェーンを巻き、破れたダメージジーンズから薄暗い肌色を覗かせる。
……そう、その男の肌は不自然な程に黒だった。




