「やるせなすび」
「やるせなすび」はナス科マンドレイク属に属するマンドラゴラです。
詰まるところ人型植物です。
葉の部位を手の様に使い軽いジェスチャーを行って意思疎通をはかろうとすることから知性を持っていることが想定されますが今までの解体の結果、脳に該当する思考機能を持つ部位は未だ発見されていません。
実の部分がやるせない表情をしているように見えますがそれは模様で表情の変化は行いません。
「やるせなすび」は以下五つの条件を満たす人間の肩の上に突然生えてきます。
条件1:一年以上特定の職場で働いている。
条件2:勤務時間が通勤時間、休憩時間を含めて12時間を越えている。
条件3:肉体的、精神的疲労を一週間以上抱えている。
条件4:職場への不満を抱えている。
条件5:二週間以内に野菜をあんまり食べておらず体内のビタミンEが不足している。
体長は直径12センチメートル、重さはペットボトルのキャップと同等です。
その体重に関わらずやるせなすびが肩に生えるとその人物は定期的に肩こりを訴えます。
色合いについては基本的に青色に近い紫色をしているそうです。
食事、排泄活動は一切行わず肩の上に根をはり基本的には移動を行いません。
また植物であるにもかかわらず光合成をしている様子は観測されていません。
これまでの観測データから宿の主の社会へのマイナス感情をエネルギーに変換し成長しているようです。
「やるせなすび」が発生した場合彼らの存在は「やるせなすび」が肩に現れた人物、つまり宿主となった当人以外認識出来ません。
また宿主も「やるせなすび」が肩に存在することに例外なく何の疑問もいだきません。
宿主は「やるせなすび」が生えても通常通り日常生活を送ります。
ですが「やるせなすび」発生以前に比べ疲労感を訴える回数が如実に増えます。
「やるせなすび」の存在は政府も認知しており、労働効率上昇のため今まで何度も駆逐作戦が発令されてきましたが彼らの数は未だ減っておりません。
五年以上「やるせなすび」を生やしていると現状維持以外に頭が回らなくなります。
新しいことへのチャレンジ精神とかそういうのが軽減されてしまうのです。
対処法としては「やるせなすび」をなす田楽にして食べると美味しいです。
「やるせなすび」の収穫自体は簡単で実の部分は手でちぎれます。
根っこを無理に抜こうとすると急激な脱力感にさいなまれるのでおすすめはしません。
調理方法も通常のなすの調理法で構いません、何なら麻婆茄子も美味しいですよね。
ですが一人で食べた場合どれほどに高温処理をしても「やるせなすび」特有の毒性が発生し突然の虚しさに襲われます。
なので彼らを食べる際は気の合う知人と食事会を開きましょう。
無事に彼らを完食するとやるせなすびの根っこは枯れ、抜け落ちます。
ですが条件を満たすと再び生えてくるので油断大敵です。
彼らの目的、存在理由は未だ判明してません。
あなたの肩に現れたときはすぐに収穫して美味しく食べてやってください。