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「コハルモドキ」

挿絵(By みてみん)


 「コハルモドキ」はバラ科スモモ属サクラ亜属に分類される落葉広葉樹(らくようこうじゅりん)所謂(いわゆる)(さくら)」の花弁(はなびら)によく似た頭部を持つ日本固有の生き物です。

 顔に対して体は小さく、地上では四足歩行で移動します。

 最も近い種族の生き物は哺乳綱(ほにゅうもう)ネコ目イヌ科イヌ亜科、「(きつね)」に近しい生き物であると考えられています。


 「コハルモドキ」は桜が咲き始めると共にその姿を現します。

 桜の花弁(はなびら)に混ざって空中を滑空するのです。

 上手く体を顔の内側に隠し、タンポポの種よりも軽い体を風に(ゆだ)ねることで彼らは宙を舞います。

 彼らの体長は約6センチ、桜の花弁よりも一回り大きいいため意識して探せば見つけることが出来るかも知れません。

 ただし彼らの個体数自体は少なく、舞い散る桜吹雪の中で彼らに出会うのは安易(ようい)ではありません。


 探し続けて、生涯で一度出会えるかどうか、正に「一期一会」です。


 「コハルモドキ」は空中を滑空することで狩りを行います。

 彼らの主食は「乞鼠(こいねずみ)」です。

 「乞鼠(こいねずみ)」は寒冷期に出現するUFAです。

 彼らは古くから日本に存在し、かの俳諧師(はいかいし)、松尾芭蕉の残した句に存在を示唆(しさ)する一文がありました。



 袖の色 よごれて寒し こいねずみ



 「乞鼠(こいねずみ)」は鼠という名称をとっていますが、その実体は空気中を浮遊する霧のような細菌の集合体です。

 一体一体は2.22μm(マイクロメートル)程の大きさであり真っ白な霧のようでいて、見つめるとどこかぼんやりと薄暗く感じるような姿で見えます。

 彼らは触れる全ての生物から体温、つまり熱エネルギーを奪うことで生存に必要な養分を得ています。

 熱と言う餌を求めを薄暗く群れなす姿から鼠に揶揄(やゆ)されるようになり「乞鼠(こいねずみ)」の名称がつきました。

 熱を主食にしてはいますが必要以上の熱を吸収すると太りすぎで死滅してしまうため、寒冷期にのみ人前に姿を現します。

 平均して関西では四月下旬、関東では五月中旬まで姿を現すため春を前に寒さがぶり返すのも彼らの仕業なのです。


 さて、ここで「コハルモドキ」に話を戻します。

 「コハルモドキ」は「乞鼠(こいねずみ)」を捕食します。

 春の風を舞う桜の花弁(はなびら)に混じって、彼らは優雅に食事に勤しみます。

 人知れず黙々と、寒さの元である「乞鼠(こいねずみ)」を食べてくれるのです。


 そして、桜が散り終わる頃になると「コハルモドキ」は地上に降り立ち、地中に潜っていきます。

 「乞鼠(こいねずみ)」を食べて集めたエネルギーをお腹にため、体内で新しい命の「()」を生み出していたのです。

 この「種」について、今のところサンプル数が少なく詳細なデータは出ていません。

 わかっていることは新しい植物が生まれるといったものではなく、種子の形をした熱エネルギーの塊であるという推測がたてられています。

 地中に潜った「コハルモドキ」はその場で生涯を終え、その種と共に別の命に新しい「熱」を分け与えているようです。


 総評として「コハルモドキ」は春の前触れと共に姿を現し、春が終わるよりも先に姿を消します。


 どこから現れて、何故土に(かえ)っていくのか……。


 わからないことは多いですが私達が目にする彼らの生涯は、私達人間からすれば、とても短い一時の間です。


 あなたの元に彼らが現れた時、可愛そうだとは思わないでやってください。


 あなたもきっとどこかで彼らの「熱」を受け取っているのですから。

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