表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

「一夜嬢」

挿絵(By みてみん)


 「一夜嬢(いちやじょう)」は特定の条件を満たす成人男性の元に現れる女性です。


 まず彼女の外見的特徴として一番にあげられる点は豊満(ほうまん)な女性である、ということです。

 彼女と出会った多くの男性達がそう証言していました。


 それでいて若々しく(つや)のある肌をしているため若年であることが推定されます。

 肌について特筆するならば人間のそれよりも赤々とした色合いをしており、ホモサピエンスでないことが伺えます。

 これは抜け落ちた彼女の緑色の(あで)やかな髪の毛を検査したところ、地毛であったと言う点からより有力な説であるとされています。


 彼女は口元を覆う使い捨てマスク、黄色く簡素な作りのドレスと大きなペレー帽をしており、ペレー帽からは黄色い突起物(とっきぶつ)が出ており、彼女はこれを帽子の「飾り」だと証言しています。

 どうにも顔を見られるのが恥ずかしいようであまり目を見て話そうとしません。


 彼女は以下の条件を満たす成人男性の元に一夜限りで現れます。


条件1:独身であり一人暮らしを五年以上続けている。

条件2:平均して一日に8時間以上の労働をしており、金銭的余裕がある。

条件3:主な労働時間が日中であり、夜間の労働は必要最低限である。

条件4:これと言った趣味がなく月当りの娯楽費が5000円を下回る。

条件5:紳士的(しんしてき)な性格をしている。


 以上の条件を満たす人物が労働を終え午後8時以降自宅に滞在していた時、彼女がその人物の元を訪れる可能性があります。


 「一夜嬢(いちやじょう)」がその人物の元を訪れたとき、彼女はその人物の自宅に一泊させてくれと頼み込んできます。

 通常であればこんな不審な人物を家に上げないと思うのですが、何故か彼女に出会った男性達は彼女の承諾をのみ彼女を家に泊めます。

 家に泊まった彼女はごく自然な振る舞いで対象人物と一晩を共にします。

 一晩を共にするというのは普通に晩ご飯を食べて、普通にお風呂に入って、普通に寝ると言うことでいかがわしい意味ではないです。

 この時、「一夜嬢(いちやじょう)」は面識がないはずの対象男性に対して家族同然のように親密に振る舞い、対象男性もそれに対してなんの疑問も抱かないようです。

 

 彼女の特異性は対象男性の睡眠時に現れます。

 対象男性が平常時の就寝時刻を迎えた時、「一夜嬢(いちやじょう)」は一宿一飯の恩義と称して対象男性に「キス」をします。

 これは「マウス トゥ マウス」な感じで唐突に行われ対象男性にそれを防ぐ手立てはありません。

 これまでの調査でこの「キス」は平均して五分間行われていることがわかっています。

 彼女のキスを受けた対象男性は即座に昏睡状態(こんすいじょうたい)に陥り、この上なく幸せな夢を見ることがわかっています。

 そして彼らが目覚めた時に部屋に「一夜嬢(いちやじょう)」の姿はなく、財布から数千円程度のお金がなくなります。


 最後にある男性が録音した彼女へのインタビューが残っているため、そちらを公開します。


――――就寝時刻前に取られたインタビューログ


「……ところで君はどうしてうちに来たんだい?」


「ちょっとね……、家出してな。ウチ、泊まるとこないんよ。」


「どうして家出を?」


「いや……、ウチはおとんが厳しゅうて。」


「お父さん?何をしている人なんだい?」


「うーん……、せやな。あんたらが知っとるやつやと裁判官ってとこかいな。」


「なるほど、厳格なお父様のようだ。」


「最近は爺婆の相手ばっかりだっていつも文句を垂れるんよ、娘に向かって!」


「ははは、お父様の相手は大変なようだね。」


「ウチだっておとんの跡継ぎな訳やから人間の魂ぐらい簡単扱えるんやけど、しっかり勉強しろってうっさいんよ、ほんと!!」


「僕には娘がいないからわからないけど親なんてそんなものだよ、君を心配しているのさ。」


「……でもウチはもうちょっと遊びたいんや!」


「若いなぁ、お嬢さんは。」


「せやから、お兄さん!ちょっと小遣いちょうだいな!」


「……お金にはちゃんと対価が必要なんだよ?」


「ふふ、任せてぇなお兄さん!ウチの超絶テクニックを格安で提供したる!!」


「粋のいいお嬢さんだ。」


「まぁ、一宿一飯の恩義や!心して受けとってぇな!!」


――――インタビューログ終了


 彼女に出会った人物はその後も変わりなく過ごしますが、どうにも彼女の事を死ぬまで忘れられないようです。


 彼女の目的は未だ不明です。

 あなたの前に現れた時はきっと素敵な夢が見られるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ