混乱
『夢じゃない。これは現実だ』
頭の中でそう響いた声に、シェリルは聞き覚えがなかった。兄のものでもない、明らかに幼い女の子の声。
だがその次に同じ声が届いたのは、彼女自身の<耳>だった。
「まったく、手間を掛けさせてくれたものね」
「!?」
面倒臭そうにそう言う声にその場にいた全員、シェリル、バレト、ネドル、フィが視線を向ける。
「なによ、その顔は。あんた達の訊きたい話をしに来てやったんだから、もうちょっと歓迎してくれてもいいと思うんだけど?」
鬣のような赤い髪に手を突っ込んでぼりぼりと頭を掻きつつ、突然現れた<少女>は、まるで睥睨するかのように、小さな体ながら人間達を見下ろしていたのだった。
「君は…?」
そう問い掛けるバレトに、少女は名乗った。
「私はマリーベル・エルシャント。そこに寝転がってる彼女と、そこのけったくそ悪いエクスキューショナーの<同類>」
透明な右腕で前髪をかきあげ、同じく透明な左目を見せつけるようにしたマリーベルの視線の先には、顔と体の右半分の皮膚が同じように透明になったシェリルがいたのだった。ブロブが同化したのだ。完全に熱で変質して死滅した皮膚と入れ替わる形で。それによってシェリルは一命を取り留めたのである。
「私の視覚情報を送ってあげるから、今の自分の姿を見たら?」
マリーベルがそう言った瞬間、シェリルの頭の中に、バレトに支えられネドルに付き添われた<自分の姿>が見えた。だがその瞬間、
「な…!?」
と声を上げてしまう。そこにあったのは、顔の右半分が醜い怪物のような姿になったそれだったからだ。
「びっくりして当然でしょうけど、そうしなきゃあんたは死んでた。感謝しろとは言わない。でも、まずは落ち着くことね」
そう言われても、あまりのことに「な……な…ぁ……!?」と言葉にならない言葉が漏れて頭がパンクしそうになる。
だがそんな彼女に再び声を掛ける者がいた。
『マリーベルの言うとおりだよ、まずは落ち着くんだ、シェリル』
兄だった。兄の声が頭の中に響いてくる。しかも、頭の中に兄の姿までが見える。ブロブと同化したことで、ブロブの中にいる彼と完全に繋がったのだ。しかしシェリル自身には何が起こっているのか理解できない。
「お兄ちゃん! なんなのコレ!? どうなってるの!?」
「シェリル!?」
突然そう声を上げたシェリルにバレトが戸惑う。いる筈のない<兄>の声が聞こえているかのような様子に、彼はシェリルが錯乱状態に陥ってるのだと思った。
だが、マリーベルは言う。
「彼女は今、自分と同化したブロブを通じて、ブロブの中にいる<お兄ちゃん>と話をしてるだけ。心配要らない」
「なんだと…? それはどういう…?」
「だから今からそれを説明してあげるって言ってんの」




