賭け
バレトは生粋の軍人であり、敵と見做せば相手がたとえ子供であろうと容赦はしない。しかしそれは同時に、相手が敵だと判断できなければ敵かどうかを見極める冷静さと合理性も兼ね備えているということだった。
先程、カルシオン・ボーレのパワードスーツの周りにいたブロブからは強い敵意を感じたが、今、ここにいるブロブ達からは何故かそれが感じ取れなかった。しかも、『マッテ! サキニ…!!』と人間の言葉を発したのだ。
バレトは、ブロブにそんな能力があるとは聞かされていなかった。人間の言葉を話す能力があるということなど。
「やめろ! 少し待て!! 確認したいことがある!!」
羅刹の如くブロブを容赦なく殺していく<黒尽くめの女>の前に立ちはだかり、バレトがそう叫んだ。
「邪魔を…するな……!!」
フードを目深に被ったその女は、とても人間のそれとは思えない燃えるような目で彼を睨み付けた。バレトも何度も見たことがある目だった。憎悪に我を忘れた人間の目だ。
「私はそこに倒れている娘を救いたい。彼女は私の家族だ。その為に確認したいことがあるだけだ。三十秒、待ってほしい」
<黒尽くめの女>、フィの目を真っ直ぐに見詰め返しながら、バレトは冷静に、しかし毅然とした態度でそう言った。その気迫に圧されたかのように、フィの動きが止まる。
するとブロブの動きも止まった。襲い掛かってはこない。そして口々に叫んだ。
「ニンゲン、シンジャウ!」
「ハヤク!」
「ハヤクシナイト!」
『早くしないと人間が死んじゃう』。ブロブ達は口々にそう言っていたのだ。
「助けられるのか!?」
バレトが問い掛けると、
「タスケル!」
「タスケル!」
「シナセナイ!」
と応えた。
「な…あ…!?」
その光景に、フィが声を詰まらせる。
茫然とする彼女の前でバレトはなおも言った。
「シェリルを、私の娘を助けてくれ!!」
彼の言葉に応えるように、一匹のブロブがシェリルに近付いていく。
「!?」
それに狙いを付けたネドルを、「待て! 撃つな!!」とバレトが制する。すると三人の前の前で、シェリルがブロブに覆われていった。
「……く…!」
バレトにしても、これは<賭け>だった。シェリルの様子を見る限り、ここから彼女を背負って町まで戻って病院に向かったとしても間に合う可能性はほぼなかった。死に瀕した人間を何人も見てきたからこその直感だった。
だが、そんなシェリルをブロブは『助ける』と言う。ならば、どうせ助かる可能性がないのなら、敢えてブロブの言うことに賭けてみようと考えたのだった。




