憤怒
「フィ…フィさん……これ、どういうことなんですか? 『体がブロブでできている』ってどういう意味なんですか……!?」
テレビの画面を見てシェリルもそう声を上げたが、振り返ってフィの姿を見た瞬間、声を詰まらせてしまう。フィから発せられる凄まじい気配に体が勝手に竦んでしまって言葉にならない。
そんなフィの様子を見て、シェリルは思った。
『フィさんも怒ってるんだ。ブロブで亡くなった人をこんなふざけたトリックで貶めるようなのが許せないんだ……!』
シェリルのその推測も決して的外れではなかった。この時、フィの脳裏を占めていたのは、
『ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……!!』
という思考だったからである。
だがそんな彼女らの気持ちを逆撫でするかのように、テレビの中の<ウォレド夫妻を名乗る何か>は、演説をするかのように熱く言葉を並べていた。
「私達は、確かにブロブによって人間の肉体を失いました。しかし私達は死んではいないのです。私達は今、ブロブの中で生きています。ブロブに同化された人々全員がそうなのです。私達は生きているのです。ブロブは私達そのものなのです。
皆様にお願いです。ブロブを憎まないでください。ブロブを殺さないでください。私達は今、ブロブそのものなのです。ブロブを殺すということは、私達を殺すことになります。
私、セルガ・ウォレドと妻ネリスはここで正式に要請いたします。ブロブの一斉駆除を中止してください。私達を助けてください…!」
テレビの中の<セルガ・ウォレドに見える何か>がそこまで言った時、シェリルは気付いた。フードの奥から途方もない激しい感情をはらんだ狂気じみた視線を向けながら、テレビにグレネードマシンガンの銃口を向けるフィを。トリガーに掛けられた指に力が籠められるのを。
「フィさん! 駄目ですっっ!!」
さすがにシェリルの体が反射的に動き、飛び付くようにしてセーフティーを掛けていた。操作がしやすいように、一目見てセーフティーがかかっているかどうかが分かるようにする為に大きなレバーになっているのが幸いした。また、セーフティーを外すには力がいるが、掛けるにはバネで簡単に掛けられるようになっているのも幸いだった。
そのシェリルの咄嗟の行動に、フィがハッとする気配が伝わる。
「…あ、ああ……そう、だな……」
いくらなんでもホテルの室内でテレビにグレネードを放つなど、暴挙にも程がある。しかしこの時のフィは、完全に正気を失っていた。シェリルがいなければ間違いなく引き金を引いていただろう。彼女にとってはそれほどの内容だったということであった。




