反応
『イレーナを、ベリザルトン夫妻に会わせたいの』
「な…!?、あ…!?」
マリアンが言い出したことに、ベルカは呆気に取られるどころかカアッと頭の芯が熱くなるのさえ感じた。
憤りだった。憤りがベルカの体の奥の方から噴き上がってきたのだ。
「マリアン! いくらなんでもそれは酷すぎないか!?」
ついそんなことが口を吐いて出てくる。それは、マリアン自身が想定していた反応だった。ブロブの中にいる犠牲者を呼び出して遺族の前に姿を見せるということで起こるであろうと想定していた反応の一つだった。
確かに、亡くなった人を会わせられればと人間なら誰でも思うことだろう。けれども、それが他でもない、命を奪った筈のブロブそのものによってとなれば、感情的に納得できない受け入れられないという人間も出てくるだろうとは思っていた。まさに、今のベルカのように。
「酷い…か。確かにそうかもね。だけどブロブとの共生を考えるなら、いずれは通る道だと私は思う。だとすれば、ベリザルトン夫妻がそれを試すのには一番の適任者だと思うの」
それは、学者としてのマリアンの発想だった。人間とブロブの共生を図る上での被検体として、ベリザルトン夫妻を選んだということなのだろう。
理屈は分かる。分かるけれど、そんなことを認めていいのだろうか……? こんな、人間を使った、それも、愛する娘を失ったあの二人に、改めてイレーナがブロブに食われたのだという現実を突きつけるようなことを……
「私は、反対だ……」
感情的に喚き散らしてしまいそうになるのを辛うじて抑え付けながら、ベルカは自分の<意見>として端的にそれを口にした。
「そうか……ベルカはそう思うのね? だけど、ベリザルトン夫妻自身はどうかしら? 『会いたくない』と言うのかしら?」
マリアンも、努めて冷静に、あくまで<意見>として述べた。決してベルカの意見を蔑ろにして自分のそれを押し付けようとしてるのではない。単純に学者としてのただの意見だ。ベルカのことを<相棒>と認めたからこそのことだった。
「それは……!」
マリアンの言葉に、ベルカは二の句が継げなかった。確かに、それを『酷いことだ!』と感じてるのは自分であって、夫妻に直接訊いた訳ではない。もしかしたらあの二人なら、たとえブロブになってしまった娘であっても『会いたい』と言うかもしれない。それどころか、あの透明なブロブとしての姿の娘であっても受け入れて一緒に暮らすことだってできるかもしれない。いや、自分が知るベリザルトン夫妻ならそうするだろうとも思ってしまったのだった。




