嗅覚
しかしそうなると次に心配されるのは人間に対する共感性の低下だが、皮肉なことにシルフィの場合は暴徒に両親を殺されたことである意味では既に人間を見限っており、改めて人間に敵意を向けるという必要はなくなっていた為に影響はなかったようである。
マリーベルに聞こえている囁きも、何となくのレベルでは感じているものの、それは両親を殺されたことによる人間への憎悪にまぎれてしまって、それと一緒に無意識下に押し込められている状態だった。
更に融合が進めばマリーベルのようにはっきりと聞こえてしまう可能性もあるが、今のところはこれ以上の融合についてはその必要性も感じておらず、このままで終わると思われた。
それでも一応、マリーベルからの忠告は行われている。
「なんか、よく分からないけど人間を恨め憎めみたいな声が聞こえてくるかもしれないけど、気にしなくていいから。たぶん、ブロブの中にいる誰かの愚痴だと思うし」
言い方としては少々あれかもしれないが、意外と的を射ているかもしれない説明だっただろう。シルフィもそれで十分、理解できた。
「分かった。気を付けるよ」
とまあ、要件については簡潔に済ますことができ、後は必要に応じてブロブを通じて連絡を取ればいいので問題はない。
だが、そうして帰途についていたマリーベルとヌラッカの姿を、双眼鏡で見詰める人間の姿があった。
「なんだぁ? ありゃあ…」
ブロブハンターのゲイツだった。ギルドと駆除業者共同での一斉駆除が始まる前に一稼ぎしておこうとハンティングに出た途中で、異様な鳥を見かけて双眼鏡を覗いたのである。
「ブロブ…か? ブロブが空を飛ぶってのは本当だったのかよ……」
普通の生物ではありえない透明な体を持っていることで、その正体がブロブであるということを一目で見抜いていた。人間的にはロクでもない男だが、ことブロブに対する嗅覚では、匂いそのものに敏感なベルカとは別の意味で並外れたものも持っている男だった。
「けど、空飛ぶブロブってのはやっぱレアかね」
そう言いながら腰に下げていた小さなバッグの中から箱を取り出し、そこに入っていた昆虫の模型のようなものを空中に放り上げた。するとそれは小さな羽音をさせながら宙を舞う。ドローンだ。
ゲイツがドローンが入っていた箱を広げるとそこには小さな画面があった。コントローラー兼モニターだ。画面が点灯するとそれはサーモグラフィーを思わせる映像が映し出されていた。通常のカメラには映りにくいブロブを捉える為のカメラだった
ゲイツが放ったのは、追跡・監視用の小型ドローンであった。




