転機
『ブロブを殺すだけなら必ずしも軍人になる必要はない』
そんな当たり前のことにも思いが至らない程に、精神的に追い詰められていたのだと、シェリルは今更ながら自覚させられていた。
もちろん、軍人を目指したのはそれだけではなく、兄の跡を継ぎたいという想いからのものでもあるのだが、それと相まって結論ありきの思考に陥っていたのである。
実際、軍属となれば希望の任地に必ず赴けるとは限らない。一応は希望も訊かれるがその通りになるとは限らない。その点、駆除業者ならファバロフ以外には必要ない上にブロブを含めた害獣が相手なので、そちらの方が遥かに確実な筈だった。
ただ、そうなると自分が今まで何をしてきたのか、これまでの十年は何だったのかという話でもある。
「は……はは……私、ホントに何やってたんだろ……」
膝の力が抜けてその場に座り込んでしまいそうになるほどの脱力感虚無感を覚えながら、シェリルは呟いた。
そんな彼女を、黒尽くめの女性はただ黙って見ていた。
「用はそれだけ? だったらもう行くから」
女性はそう言いながら踵を返そうとする。だが、今度はシェリルが縋るように声を掛けた。
「ま、待って! わ、私もあなたのところで雇ってもらえないかな…!?」
その言葉に、女性からは戸惑うような気配が伝わってくる。
「駆除業者としてってこと…? 悪いけど私はフリーでやってるの。人を雇うつもりとかないから」
「そこを何とか…!」
と、シェリルは追い縋る。どうやら彼女は元々、思い込みが強く直情的で短絡思考なところがあるらしい。
「…職業案内所にでも行くのね。駆除業者なら求人も出てると思う……」
などと取り付く島もない。
「でもでも、話くらいは聞かせてほしいかなって。ね? 食事を奢るから…! え、と……!」
食い下がるシェリルの姿に、女性は、
「……フィ、よ。私の名前はフィ。ちょうど食事にしようと思ってたところだったし、奢ってもらうわ」
と、どこか呆れたような口調でそう応えた。
「あ、はい! ブロブのことを聞かせてください! 私はシェリルです! シェリル・マックバリエト!」
何とか食い下がることができてシェリルはテンションが上がっていた。その様子がひどく幼く見える。まるで十歳かそこらくらいの子供のようですらあった。
いや、彼女の本質はそうなのだ。兄を亡くした十年前から精神的な成長が止まってしまい、体と知識だけが無駄に成長したアンバランスな状態だった。彼女の視野の狭さも、結局はそこに原因があるのかもしれない。




