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侵略者  作者: 京衛武百十
27/104

相対

『…何の用……?』


尾行していた筈の相手に待ち伏せられてそう問い掛けられて、シェリルは滑稽なくらいに動揺していた。


「あ……いえ、あの、その……用って言うか……」


その様子に黒尽くめの女性も、油断はしてないが若干、緊張は緩んだようだ。警察なりなんなりではないと感じたのだろう。


「素人丸出しね……怪我でもしてる? 足まで引きずって。でも、そういう真似は自分の寿命を縮めることになる。自重した方がいい……」


確かに。彼女の言う通りだと思った。これがテロリストなどが相手だったらこの時点で自分は殺されていたかもしれない。


「ごめんなさい……知り合いに似てたものだから、つい……」


そう言って立ち去ろうとするシェリルを、黒尽くめの女性は呼び止めた。


「待て。その前にどうして尾行してたのか理由を聞かせてもらう……」


「え……だから、知り合いに似てたから……」


「そんな話、信じると思う…? 正直に答えろ。逃げようとしても無駄。私が銃を構えてることくらい分かるはず」


確かに、その女性はロングコートのポケットに手を突っ込んでいて、その中で何かを握っているのは分かった。そう言われれば拳銃のようにも見える。


テロリストではないかもしれないが真っ当な人間とも思えなかった。こんなところで銃を使うなど。


シェリルの背中にじっとりと汗が滲む。


はったりの可能性も考えるものの、事実ならその時点でお終いかもしれない。こういう時にどうすればいいのかまでは実技でも教わっていなかった。当然だ。彼女が通っていたのは一般的な士官コースであって、諜報部や特殊部隊のそれではなかったのだから。


故に、彼女は半ばヤケクソ気味で、正直に応えることにした。


「あなたから、ブロブの匂いがしたからよ……」


シェリルが呟くように言ったその言葉に、黒尽くめの女性の体にギリッと力が入るのが分かった。空気がさらに張り詰めていく。


「それは、どういう意味……?」


問い掛ける言葉にも、不穏な気配が滲み出ている。シェルミは、直感的にヤバいことを口にしてしまったのだと自覚した。


『マズい…地雷だったか……』


そんな思考が頭の中を駆け抜け、冷汗は全身から噴き出してきているのが分かった。喉もからからに乾いている。


「…き、気に障ったのならごめんなさい……でも、気になったからつい……私、兄をブロブに殺されてるから……」


今さら身の上話で気を逸らすことができるとも思えなかったが、殆ど無意識のうちにそれを口にしてしまっていた。


だが―――――


『ブロブに兄を殺された』


その言葉が出た瞬間、フッと空気が緩むのが分かった。


それを察して戸惑うシェリルを、黒尽くめの女性はサングラスの向こうからじっと見詰めていたのだった。



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