アクセス
虫歯一本と引き換えにブロブと交信する能力を得たシルフィは、そこに蓄えられた情報を見るのが楽しみになった。
しかも、ブロブは既に多数の人間を取り込んでいる為、その人間が持つ記憶や情報にもアクセスできた。
そのままでも可能ではあったが、プリンの体の一部で再生してもらった歯に触れさせるとより鮮明に確実に情報が伝わった。
ただ、その場合、絵的にあまり人には見せられないものになってしまうが。
何しろ、プリンやシフォンの触手を口に咥えるという形になるのだ。事情を知らない人間が見るとあらぬ誤解を招くかもしれない。
とは言え、この洞窟にいる限りはそんなことをとやかく言う人間もいない。今はプリンの中にいる両親も、人間としての感覚からすればいささか気になるところだろうが、既にブロブの感覚が混ざってしまっていることで、あまり気にならなかったようだ。
数千人分の人間の記憶となれば、そこに含まれる情報量だけでもシルフィ一人が見るには無理があるほどのボリュームだった。それに他人の過去を覗く趣味も彼女にはない。そこで、音楽や映像、書籍の情報に絞ってアクセスすることにした。
人間は、基本的に見聞きしたことの殆どをそのまま記憶として取り込んでいる。しかし、それでは情報量が多すぎて効率が悪い。それで加工したり改変したり編集するような形でコンパクトにまとめ、普段はその部分だけにアクセスするようになっている。が、それ以外の情報も保存はされているのだ。アクセスできないだけで。
が、ブロブは人間と違い、それらの情報の中から必要なものに一瞬でアクセスできる能力がある。それでもあまりに情報が膨大だから多少の時間がかかることもあるが、人間とは比べ物にならない情報処理能力を持っていることは事実だった。
『ブロブの知能がネズミほどなんて、やっぱり嘘なんだ…』
シルフィの人間としての脳は、ブロブが蓄えている情報を<海>として処理したのだろう。目の前に広がる途方もない情報の海を前にして、シルフィは呆然とすることもあった。とは言え、プリンやシフォンを中継すればブロブの情報処理能力の助けもあって、望みの情報に比較的簡単に辿り着くことができた。そうやって音楽や映像や書籍の情報を取り出してはそれを楽しんだ。慣れれば音楽を聞きながら本を読むような形で楽しむことさえできた。
これにより、不法投棄されたゴミの中から拾ってきたラジオは、もはや使われることもなく埃をかぶることになったのだった。




