ひらめき
『人間として生きてほしい』
それが両親の願いだと分かっても、シルフィの心は揺れていた。話を聞こうともせず暴徒と化して両親を殺し、そのままでも特に危険もなかったプリンを攻撃したことで反撃されて食べられてしまうような人間達と自分が同じというのがどうしても納得がいかなかった。
しかも、すっかり今の生活に慣れてしまった以上、いまさら人間社会に戻る気にもなれない。さらに、人間社会に戻るということは、プリン達ブロブと敵対するという意味でもある。それだけは嫌だった。
「私、どうしたらいいんだろう……」
自分に寄り添うプリンとシフォンを撫でながらシルフィは溜息をついていた。ようやく十一歳になった少女にはあまりに難しい問題だっただろう。かと言って相談できる相手もいない。マリーベルは頼りになるが、彼女は完全にブロブの側の論理で動いてるのが分かる。彼女を見習えば、今の生き方でいいという結論しかないに違いない。
「私、世の中のことをもっと知らなきゃいけないのかな…」
この問題に解答を出すには、自分はまだまだ幼くて未熟で無知だと思ってしまった。
と、その時、シルフィはズキン、という痛みにが奔るのを感じた。思わず頬を押さえる。
「え……あ、まさか…?」
そのまさかだった。虫歯である。それなりに気を付けてはいたつもりだが、歯磨き粉と歯ブラシを使って磨くということができなかったが故に、虫歯になってしまったのだった。
「どうしよう……」
今の状態では歯医者に行くこともできない。行けば身元を調べられるだろうし、そうすれば自分があの事件で行方不明になった娘だと分かってしまう。となれば半ば強制的に保護されて施設に入れられてしまうに違いない。プリン達とも別れることになってしまうだろう。それも受け入れられそうにない。
だが、そんなシルフィの頭にマリーベルの姿が浮かんだ。透明な右手と、淡い水色の左目を持ち、それを介してブロブと交信できるという彼女の姿が。
「今のままじゃ、歯医者には行けないよね。じゃあ、この歯をプリンの体の一部で補ってもらったら……?」
などという発想が頭をよぎってしまったのである。するともう、彼女は自分の考えを抑えておくことができなかった。
「そうだ、そうだよ! どうせ放っておいたらダメになる歯なんだもん。だったらいっそ、プリンに虫歯の部分だけ食べてもらって、交換してもらえば…!」
子供であるが故の幼稚で無茶な発想だったかもしれない。だが実は、合理的なものでもあったのだ。それは十分に実現可能なことだったのである。




