望み
「シフォン。あなたミルクだったんだね」
マリーベルが帰ってからシルフィはシフォンに向かって言葉を掛けた。それに応えるかのように、シフォンが体をフルフルと震わせる。
「でももう、シフォンってことになってたからなあ……もうシフォンでいいよね」
シフォンがミルクの新しい体だと分かったけれども、さすがに今さら『ミルク』と呼ぶこともできず、今後も『シフォン』と呼ぶことにした。
もっとも、ブロブにとって名前は重要ではなかった。個体差は有ってもそれは一時的なものなので、プリンもミルクもシフォンもヌラッカも全て同じなのだ。
だからまあそれはいいとして、気になるのはプリンとミルクを攻撃してきた女性のことだった。遠目でも分かるほどに激しい敵意を剥き出しにしたその姿に、シルフィは恐怖と共に悲しさを感じた。
「プリンもシフォンも、こんないい子なのに……」
確かに以前は人間にとって危険な生き物だったかもしれない。しかし、それは他の猛獣だって同じはずだ。迂闊に近付けば危険だし、襲われることだってある。そもそも人間の方が後から来たのだ。それなのに、両親が運営する動物保護施設を襲撃した暴徒も先日の女性も、どうしてあそこまでブロブを目の敵にするのか……
シルフィには分からなかった。それどころか、ブロブを保護していたというだけで施設を壊し両親を殺した人間の方がよほど恐ろしい生き物に見えた。先日の女性だってそうだ。まるで悪魔のような姿に感じた。
「パパ……ママ……私、どうしたらいいの……?」
マリーベルによるブロブ講座のおかげで、プリンの中に両親がいることが改めて分かった。でも同時に、あの時、プリンに取り込まれた暴徒達も一緒にいるのかと思うと複雑な気持ちにもなった。
講座の中で、マリーベルは両親を呼び出してくれた。プリンの体の一部が変形し、両親の姿になった。透明だし裸だったが、間違いなくパパとママだった。
「シルフィ…」
「あなたが元気で良かった…」
そう言葉も掛けてもらえた。
「パパ、ママ、これからも一緒にいられるんだね?」
問い掛けると、二人は優しく「もちろん。ずっと一緒だよ」と答えてくれた。
ただ、マリーベルの力を借りないとそのままでは話はできないらしい。
「私もプリンに食べてもらったら、いつでもお話しできる?」
その問い掛けには、両親は揃って首を横に振ったのだった。
「シルフィ。私達は人間なんだ。人間として生まれて、人間として生きて、人間としての命を全うするのが本来の姿なんだよ……」
「パパとママは不幸な出来事があって人間の体を失ってしまったけど、あなたはちゃんと人間として生きてほしいの。それがパパとママの望み……」




