囮
「ふざけた真似をしやがって…このクソガキがぁ……!!」
筋肉標本のような頭で、マリーベルをギロリと睨み付けつつ、フィニスが絞り出すように言った。
それに対し、獣のように四つん這いになってやはりギロリと睨みつつ、マリーベルが言う。
「は…!、な~にキレてんのよ。更年期かしら?。でも、そんな更年期オバサンに話を聞かせる方法なら、もう思い付いたけどね」
彼女がそう言った時、最初にマリーベルが立っていた場所に新たにブロブが現れていた。ヌラッカだ。
その瞬間、マリーベルの体が弾かれたように飛んだ。それに対して、フィニスは容赦なくグレネードを放つ。しかしそんな彼女の背後から飛び掛かる影があった。マリーベルに意識が向いた瞬間にそれを囮にしてブロブが飛び掛かったのだ。
だが、それは既に見破られていた。身を翻しつつ、フィニスはそちらのブロブにグレネードマシンガンの銃口を向けていた。
と、引き金を引こうとしたフィニスの体に、ドスッという衝撃が伝わる。
「…な!?」
「残念、それも囮よ、オ・バ・サ・ン」
フィニスが気付いたその時には、彼女の腹に、背中側からマリーベルの右腕が突き立てられていたのだった。
ニヤリと笑いつつそう言うと同時に、マリーベルは左手に持っていた超振動ナイフで、自らの右腕を肘の辺りで切り落としていた。
すると、切り落とされたマリーベルの右腕がするすると形を変えて、フィニスの体へと潜り込むようにして消えた。
だが、右腕を切り落とした痛みはあったのか、跳び退いて距離を取ったマリーベルの額には脂汗が浮き出ていた。そんな彼女にヌラッカが寄り添い、その体の一部を変化させて肘から先が失われた右腕にまとわりつき、そして再び右腕の形になった。
「貴様…何をした……!?」
腹を押さえつつ、フィニスがマリーベルを睨む。しかし彼女は痛みはまったく感じていなかった。腕を突き立てられた瞬間は確かに痛みも感じたが、それも一瞬だった。今は痛みどころか違和感すらない。
「何って。あんたの体はアンテナが壊れてたから、新しいのをくれてやっただけよ」
マリーベルの言葉と重なるように、
『フィさん!』
と彼女を呼ぶ声が頭の中に響いた。シェリルだった。シェリルがブロブの体を通じて呼びかけたのだ。
「な…なあ……!?」
驚いたフィニスに、更に呼びかける者がいた。
『フィニス!』
『フィニス!』
懐かしい声だった。忘れたくても忘れられる筈のない声だった。
「パパ!? ママ!?」
思わず口から漏れたその声は、まるで子供が迷子になっていてすごく不安だったところに両親が現れたかのような安堵の響きが混じっていたのだった。