プロローグ4
「とにかく、お前の作品は面白いつまらないじゃない。意味が分からん。褒めるところが無ければ貶すところもない」
まあ、後半は説明必要だろうな。
マンガってのはいい作品は当然称賛される。
ちょっと足りない作品は酷評される。
面白くないものはなんだ? さて考えてみようか。
それを聞いてみたらこのアホはこう答えやがった。
「バカにされるだけじゃないのか?」
「それはちょっと足りない作品だっつうの。ちょっと足りない作品は酷評されるって言ったよね」
正解は話題にもならないだ。
これ読んでいる読者諸君もわかるだろう?
面白い作品には口を出したくなるけど、つまらんものには口を出す気すら起きないだろう?
「つまり、ゴブリンとかオークうんたらかんたら言われた俺の作品は、ちょっと足りないという事か?」
「お前、無理矢理言わせといて何言ってんの?」
「だって誰に見せてもつまらんしか言わないけど、あんたは酷評したじゃないか」
「お前な……」
こいつにエサを与えちゃったって事か? つうか、編集でもマンガのどこが悪いかなんてピタリと言い当てられる人間は多くないぞ。
編集ってのは出版社のサラリーマンだぞ。専門家じゃない。
これ言ったら編集方はマジ切れするだろうな。
先に説明しとくと、確かにマンガを分かっていて的確な事を言える人間は一部いる。
そして、この言葉を聞いて怒るのはその一部の人間だ。
サラリーマン編集は『どうせそうだけどね』とか言って黙りますからな。
この爆弾発言をして、反応してくるのは本当に違いを分かる。仲良くする価値のある人間だ。
この発言はうかつだったかもな。まあ肝心の人間が聞いてないならいいんだが。
「つまりなんだ? 本当はお前の作品は面白いんだと言っているのか? 他の編集には理解できていないだけだと言うのか?」
ちょっと冷静になろうか君。そんな屁理屈で無理矢理面白いという『事』にしたところで事実は変わらないぞ。
「そうだ。周りに理解できないだけだ……そうだ……」
あれ? 現実を直視できない困った作家のような事を言い出したぞ。
この業界には、もちろん他人に何を言われようとも自分の作品を面白いと信じて疑わない人間は多くいる。
そういう作家は淘汰されるのだが、それが編集だった場合はどうすればいいだろうか?
普通はいずれ異動になるだけだが……
この手の奴に異動先があるか……
どんなコネクションで入ったか知らないが、左遷されるにしても左遷先も仕事場だという基本を忘れてはならない。
コネクションの効かないところだったら左遷先は断る。つまり、こいつは編集部に残る。