プロローグ
俺は金の亡者と言われている売れっ子作家だ。
そのくせ儲けにもならない同人活動にも手を出しているからいろいろ言われる。
やれ、同人なんか書くならうちんところで書いてくれよとか、金になる仕事しかやらないくせに同人なんか書くなとか。
こっちからしたら勝手なこと言いやがってってとこだがな。
もともと創作物ってもんは読んだ人間を楽しませるためのもんだ。
売り上げが創作物の価値を決めるって俺の言が間違っているとは思えんね。売り上げを上げたって事はその分多くの人を楽しませたって事だし、多くの人に金を出すだけの価値があるって思わせたって事なんだから。
みんなのほうがどうかしていると思うがね。
そもそも、人の評価をもらうために書くべきなのに、人の評価なんて気にするなとか、時代に乗るなんて考えないで自分の道を追求しろとか。
読む人の事を考えずに書く事に商業誌としての意味があるのかって言うが。
正直、言わんとする事は分かる。
俺だって書きたい衝動がないわけでもない。売れないって分かってアホなもんを作って楽しみたいこともある。
だがそれは全部同人でやっている。
俺が、割り切りが良すぎるだけだ。
自分の書きたいもの、自分の衝動を、思いのままに書いたうえで評価を受けたいと考えるのが普通のようだ。
俺は評価が欲しい作品では評価を得る事だけを考えるべきだと思うがね。
他の人らにとって原稿の枚数がどう感じているかしらないが、俺には原稿用紙は狭すぎる。
あの狭い表現媒体で自分の表現したいことすべてを書き込むことなんて不可能だし、単純に時間もかかる。
時間的な理由でも人生の中で書く事のできる作品の数は限られているのだ。無駄な作品は一つも出したくない。
確実に目標を達成するものを作りたい。なら一つのものに集中して、確実に読者の心に届いて売り上げにつながるものを書こうと思うのである。
最近大きな連載が終わりそうな頃。そうなると、どこぞの編集がやってきて言うのだ。
「あなた様の作品を読者は求めております。読者様のご期待をかなえるお手伝いを、わが社でさせてください。新しい連載をわが社で……」
これくらいでいいだろう。
こんなものは定型の前口上である。本気で言っちゃいない。
たまに本気で言っている奴はいるがな。そういう奴は出世するわ。
やっぱお客のいる仕事はお客を第一にかんがえた人間が成功するのである。
連載も実はすでに書き終えている。俺の経験ではめんどくさい編集がやってくるまであと一週間くらいの猶予がある。
その一週間で海外にでも行こうと思うのだが、何せ売れっ子。
俺がエジプトでピラミッドを見るとか、アラスカでオーロラを見るとか、危険なとこばっか行こうとするので、旅行の前には許可を入れる必要があるのだ。何かあったらいけないだとか言ってな。
編集部に電話をかける。今の段階でどこに行くかは決めていないが、旅行に行く事くらいはいっておかないといけない。
この電話が厄介事の始まりとなる。