【文学】『羅生門』の結末
『諸国物語』の中の一編である
「橋の下」という作品をご存じでしょうか?
その内容は、有名な芥川龍之介の作品、『羅生門』と非常に酷似しています。
「橋の下」は、『羅生門』以前に発表された作品であり、
その主な類似点は以下の3つです。
1つ目は、小説の舞台は終始一定していて動かないこと。
2つ目は、時間的には数分の間の出来事であること。
3つ目は、登場人物が二人で、両者ともに無名であること。
しかし、最も興味深いのは、どちらの作品においても、
唯一の登場人物である二人が同じ立ち位置や役目を負っている、という点でしょう。
つまり、主人公は善悪の間を彷徨っている、危機的状況の人間で、
もう一人は、主人公に二つの道を突き付ける要因となる盗人なのです。
そんな二つの作品で、
たった一つ、決定的に違う所があります。
それは、物語の結末です。
「橋の下」では、結局、犯罪に手を染めることができずに終わる主人公を、
『羅生門』では、逆に、悪人へと仕立て上げているのです。
「橋の下」に出てくる「黒洞々(こくどうどう)たる夜」とう表現を
芥川龍之介が『羅生門』でそのまま用いていることからも、
『羅生門』が「橋の下」をベースに書かれたことは間違いないように思われます。
では何故、敢えて結末を真逆のものに作り変えたのか。
その意図は様々な憶測が飛び交う中、今もって判然としていません。