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職員室の怪

 夏にしては肌寒い風が吹く夜。一人の女生徒は学校に忘れ物を取りに戻って来た。時刻はすでに九時をまわっている。新月のせいか、近くにお店一つないのがいけないのか辺りは真っ暗だ。彼女が後悔するのにさほど時間はかからなかった。

 それもそのはず、聞こえる音は風と虫の鳴き声。明かりは申し訳程度にしかない電灯だけ。高校生の女の子が一人でいて怖いと思わないわけがない。

 帰りたいと思う気持ちを抑えて校舎に入る。歩くたびに足音があとを追ってくるようだった。けして長くはない教室までの道が、とても長く感じる。少しの物音だけで肩が跳ねる。

 幸いにも教室についてすぐに目的の物を見つけることが出来た。ここまで来るのに、なにも変わったことは起きていない。彼女は安心して、帰ろうと教室を出かけて気がついた。

 何故、普通にココまでこれたのだろうか。

 誰とも会うことなく廊下を歩いてきた。教室の扉に手をかければすんなりと動く。そもそも、校舎の中にいること事態がおかしい。時刻はもう九時半を過ぎている。

 見廻りの先生はどこにいるのだろ。

「・・・・・・っ!!」

 嫌な考えが頭をよぎって彼女は走り出した。無我夢中で、慌ただしく。職員室の前にきてようやく足が止まった。声がしたのだ。職員室の前から、誰かの話し声が。こんな時間まで残る先生はいないはずなのに。

 怖いと思いながら彼女は聞き耳を立てる。『しっぱいした』や『たりない』、『あいつはつかえる』といった話し声。そして『いけにえ』という単語。聞いた直後は言葉の意味が理解できずに変換できなかった。しかし、すぐに頭は覚醒する。『いけにえ』とは『生贄』のことだと。

 一年前、入学してから少したってから先輩に聞かされた話しを思い出す。【職員室の儀式】の噺。

 声が出そうになるのを両手で塞ぎながら、震える足に力をいれる。静かにその場から逃げるように走って帰った。

 それから三日後に川嶋涼子のニュースを彼女は目にすることになった。


 話し終わった彼女の瞳には涙がたまっていた。茜はなにも言わずにタオルだけを渡した。

「ありがとう・・・。私思うの、川嶋さんはきっと儀式に」

「いや、だから落ち着いて。」

 彼女の話を遮って新井は言葉を続けた。

「さっきもいっただろう。学校でそんなこと行われているはずがない。」

 決めつけるような言い方。断言した物言いに茜は不自然さを感じた。まるで確信をもっているような、なにかを知っているような。

 これまで黙って聞いていた茜は口を開く。彼女にではない。新井に向けての質問。

「ずいぶんとハッキリと否定しますね。先生あなたはなにか知っているんですか。それともなにか隠しているとか。」

 出来るだけ可愛らしく、冗談に聞こえるように、笑顔で鎌をかける。ここで新井の顔に焦りや不安の色が出れば黒だ。川嶋涼子の事件に関わっているかは分からなくても、今回の【職員室の儀式】には関係している。そしてそうなれば二つの関係性の有無だけは確認できる。

 逆に無反応に知らないと言われれば白だろう。ただたんに学校を信用しているとか、そんな理由。

 笑顔は崩さないままに茜は新井の返答を待つ。頭の中は色んな考えでいっぱいになっていた。それなのに、新井から返ったきた反応も言葉も予想外だった。

「もちろん知っていますよ。僕もここの教師ですし、その日の戸締まりは僕の担当でしたから。」

 とてもさわやかな笑顔。優しそうで、誰もがみんないい先生と思うような笑顔だ。でも、茜は違った。その笑顔は自分と同じように思えた。鎌をかけるような、挑発してきている顔。

 考えすぎだと、自分でも思えた。しかし、先生の話を聴いてもその考えは変わることはなかった。結局、その日は理科室に寄ることは諦めた。明日には必ず行くと蓮と話して、二人は別れて帰る。

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