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一章1-7 古き騎士(2)

「私は先王ラムール様に仕えている騎士でした。正式に近衛騎士として召し抱えられたのは私が三十一の時です。今でも昨日のことのように思い出せます」

 遠くを見るように目を細めて懐かしんでいるようだったが、表情は一切変わっていない。

「ご存知と思いますが近衛騎士は召し抱えられる時に騎士の誓いします。アンジェリカ様やコルネリウス様、ドミニク様に会ったのはそこが初めてです。そういえばアンジェリカ様が見たのはそれが最初でしたね」

 外に行った時にアンジェリカが見たルナの姿に思い出したのウルということだ。

 顔まで思い出せないが、背がまっすぐに伸びている姿は記憶の中の騎士と同じだった。

「私は先王の最後の騎士です。まだ若かった私を召し抱えられたのには訳があったのです」

 ウルは手を組み机に置く。強く互いに握り締めていた。

「私に与えられた勅命は三つ。食料運搬の護衛について必ず失敗すること、そのまま身を隠してここで生きること、アンジェリカ様をここにお迎えすること。短い……とは言えませんが、遂行できて光栄です」

 頭を下げる。アンジェリカが無事ではなかったら、この使命を達成することはできなかった。彼女が恐れずに襲いくる集団から逃げたからこそ、こうしてすべての任務を全うできたのだ。

 でも、それでもアンジェリカには分からないことがまだまだあった。

「では私を直接ここに招かれてはよかったのではありませんか? それなら……安全にできたと思うのですが」

「ここが認められた土地であれば、そうしたと思います。ですがここは、ここに住む人々は人権もなく、人もいないことになっています。国内には無い土地、この名も無い村は存在しない空白地帯なのです」

「存在しない場所に向かわせることができないと」

「それが王族であるならばなおさらです」

 アンジェリカにとって認めたくないことだった。この国にいないことにされた人がいるということが。自分にはどうすることもできないことを理解しているから、余計に言葉を紡げないでいた。

 その気持ちを知ることはできないが、ウルはですがと続けた。

「おかげで彼らはここで生活することができています。彼らは人権の代わりに安全な生活を手に入れました」

「でも……こんな所で」

「この国には彼らを人として見ている方がおられます」

 ウルは視線を外して違う方に向ける。視線を追った先にアンジェリカが見たのは、見たことがあるような剣だった。柄と鍔の交差する部位に黒い水晶が取り付けられ、中に金色の翼を持つ鳥が浮かんでいる。思い出の中にいるウルが持っていたものだ。

 誓いを捧げた剣は騎士の魂、殉職した後は剣と共に葬られる。命と同じ大切なものだ。

 彼らワーストウォーカーを人として見る人物が誰なのか、その行為を見れば語るまでもない。

「それゆえにここでも満足しているのです」

 それは、アンジェリカがここに来てから出会った全員の歓迎から明らかなことだった。


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