序章
「王女であることでみんなを不公平にするなら、私は王女でなんてなくていい」
一人の少女は額を地面にこすりつけたまま、懺悔するように言った。
周りを取り囲むのは体のどこかに奇怪な体質を持った人達、彼等はその姿を見て驚くしかなかった。
服をぼろぼろにして汚し、涙を垂らし、額を地面に擦りつけて許しを請う。それはまさに今までの自分達がしていた行為に他ならない。ほんの少し普通とは違う体をしているから仕方ないとどこか諦めていたからこそできていた。
だが、今こうして目の前で自分達と同じことをしている少女は、どこにもそんな異常はなく、むしろ必要以上に綺麗な体だ。
彼等は気付いた。自分達は自分のことを諦めて自分のために謝っていた。しかし、彼女は違うのだと。彼女は、この小さな体をさらに小さくしている女性は、自分のことを諦めて、誰かのために祈っている。それは、自分の家族のために、この国に住まう人々のために、そして、他でもない今こうして自分を諦めている人達のために、頭を下げているということ。
一人が膝をついて頭を下げる。額を地面に擦りつけるように深く、もっとも信頼する人に向ける敬意を持ってだ。
それに続いて、どんどん頭が下がっていく。全員が始めて出会ったのだ、自分達を信じて頼ってくれる存在に。生きる意味を与えてくれる、暗い道にさす一本の光に。
少女はようやく顔を上げた。
見えたのは無数の頭。全員が自分に向かって頭を下げてくれている。それは自分を王女としてではなく、公平な一国民として見てくれたのかもしれない。
それでいいと少女は思った。
守りたいと願ったのだ、この国に生きるみんなを。
「ありがとう」
だから、少女はそう言った。感謝を篭めて、下手な言葉で取り繕うことなく大切な思いの篭もった一言を伝えた。
「いこう」
振り返らない。付いてきてくれるものだけついてきてくれればそれでいいと思う。
堂々と胸を張り、一国民としてこの国を守るために歩く。そして誰よりも前で、自分がみんなを導くように。
足音はしばらくしてから聞こえてきた。一つや二つでもない。虐げられ続けた者達の自分の居場所を守るための戦いを始める音が聞こえてくる。
少女はもう止まらない。これから先、彼女は死ぬまで自分の信念を貫き通すために歩き続ける。