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恐怖!着ぐるみ村  作者: エンジン
9/19

着ぐるみ様

――遙か昔のことです。


村の近くにある大きな沼に、巨大な蛇が住み着きました。


村の作物や建物に危害を加えるので、人々は蛇を大変おそれました。


それでも勇気を出して、何とか余所の土地へ移ってくれないかと相談を持ちかけたところ、蛇はそれを受け入れる代わりに、ある条件を出しました。


「身の丈六尺ある大きな男女を生け贄として寄越せ」


村人達は困り果てました。この村には、そんな背の高い人間などいなかったのです。


でもこのままでは食べるものが無くなり、皆死んでしまいます。


その時、ある若い男が言いました。


「わしら夫婦が草木を編んだものを身にまとって、大きくなればいいのだ」


男は勇気は勇気がありましたが、その妻は大変な卑怯者で、夜な夜な一人で川を越えて逃げだそうとしたのですが、途中で足を取られ、そのまま溺れ死んでしまいました。


村人はその行為に怒り、水を含んでぶくぶくに膨らんだ彼女の亡骸を、武器や農具で何十回も突きました。


情けなく死んだその女の代わりに、密かに想いを寄せていた長老の娘が名乗り出て、男と新しく夫婦になりました。


かくして、夫婦は互いの身体に草木で作ったぶかぶかの服や、頭がすっぽり入る、人の顔をかたどった帽子を纏って六尺の大きさになりました。


そして、蛇に食べられやすくするため、己の身体を様々な武器や農具で何十回も突かせ、立派な生け贄となったのです。


生け贄に満足した蛇は何処へと去り、村には平穏が訪れたのでした。


その後、村のために命を捧げた一組の夫婦は「着包様きぐるみさま」として村の守り神となり、自己の保身のため逃げだし死んだ女は「着膨きぶくれ」として忌みの対象となって、その行いが後世まで伝えられるようになりました。


「着ぐるみ(ぬいぐるみ)の起源について 包村にまつわる伝承」


(昭和5年 村の古老より伝え聞く)




「け、健吾さん、帰ってきませんね……。み、美佳さんも……」


日が暮れても一向に帰ってこない二人を、貢達三人は下駄箱の前で待っていた。


「や、やっぱり、何かあったんじゃ……」


猛は腕を組み考え込んだまま、言葉を発しない。


「せ、せ、先生! さ、捜しにいきましょうよ! このままじゃ、大変なことになります!」


貢の思い切った言葉に猛が振り返り、そのまま貢をじっと睨んだ。


「想田……。お前がそんなことを言うとはな」


「ご、ごめんなさい、生意気なこと言ってしまって」


「違うよ、褒めたんだぞ?」


「……え?」


「いっつも怯えてばっかのお前が、自分から勇気のある提案をした。しかも普段自身を邪険にするやつを助けるという、成長したな」


「せ、先生……」


「わかったよ、捜しに行こう。南は自分の部屋で待っていてくれ。もし俺達が帰らなかったら、村の人達に報せるんだ」


「私も一緒に行きます」


「ダメだ。二人が戻ってくるかもしれないだろ? それに、全員行って全員が危険な目に遭ったらどうする?」


「危険な目……?」


「わかりました……」


不安げな表情を浮かべる南を残し、猛と貢は懐中電灯を手に、外へと出て行った。一体、この辺境の小さな村で何が起こっているのか。沈みゆく太陽に、南は自身の虞れを投影せずにいられなかった。そうしていると、子供の頃の忌まわしい記憶がよみがえる。


――私を誘拐しようとしたのは、着ぐるみ。そして、今いる場所も、着ぐるみの村。


背後に蠢く因縁を感じ取り、彼女は身震いした。


(続く)

次回更新は10月29日18時です。

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