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恐怖!着ぐるみ村  作者: エンジン
7/19

探索

翌朝、南は健吾の怒鳴り声で目が覚めた。


「クソッ……もっとちゃんと探せや! ふざけたぬいぐるみなんぞ着込みやがって!」


隣室からでも、その苛立ちが伝わる。部屋を出ると、ちょうど健吾も隣の教室の扉を開け、外へと出るところであった。


「おう、ちょっと出かけてくるわ。先生達には適当に言っといてくれ」


「行くって、何処にです!」


「決まってんだろうが、美佳さんを探しに行くんだよ。やつら、まだ見つけられてないみたいだ」


「でも昨日、あんまりうろつくなって――」


「うるせえな! 動かなきゃ美佳さんは助けられねえかもしれねえだろ! うかうかしてて万が一美佳さんが死んじゃったら、俺、俺……」


ああくそ! と健吾は床を踏みならした。


早朝からの騒々しい物音を聞きつけ、猛と貢も階段を上がってきた。


「先生、いいところに来てくれたよ。止めても俺、行くからな」


「わかった、行きたければ行け」


「せ、せ、先生! でも……」


「確かに健吾の言うとおりかもしれない。もし美佳が助かるのであれば、可能性を増やすのはいいことだ。だが健吾、決して危ない真似はするなよ」


「……分かってるよ」


猛の言葉に健吾は頷いた。そして三人に背を向け、廊下を走り去っていった。


「先生、いいんですか……?」


不安そうな南をなだめるように猛は微笑む、


「大丈夫さ。こんな小さい村、健吾みたいなガサツな奴がうろうろしてれば絶対誰かが見ていてくれるよ。なあに、皆親切な人達だから、無茶はさせないさ。それに美佳だって、あいつのことだ。またつまらん悪ふざけでもしてるに違いない。今にひょっこり出てきて、駐在にどやされるさ。それよりも勉強だぞ。この村に来る機会なんて、一生に一度あるかないかだからな」


至って呑気そうな猛とは裏腹に、南は不吉なものを感じずにはいられなかった。




健吾は鳥居のある林道へとたどり着いた。村の入り口付近まで行こうとして迷ってしまったのだが、その道中でたまたま、彼女のヘアピンが鳥居の付近に落ちているのを見つけたからだ。


前から人が来ないか、警戒しつつ進んでいく。正直言って、この村の人間は当てにならない。先生は此処の出身だからああ言うのも無理はないが、その見た目といい行動といい、胡散臭い。昨夜、美佳を捜索してると連中は言っていたが、今日自分が村を歩き回った限りでは、人捜しをしてますって感じのヤツは一人も見当たらなかった。捜す気なんて毛頭ないのか、それとも――。


白塗りの荘厳な装飾が施された建物の前まで来た時、人の気配に気づき、健吾は物陰に身を隠した。前方からやってきたのは、狸の着ぐるみであった。


建物の角までやってきた時、健吾はすかさず姿をあらわし、ひるんだ隙に相手の喉元をがっちりと押さえ込んだ。こういう力仕事には自身がある。


「おい! 美佳さんはどこだ! 言え!」


「やめてくれ、言うから、言うから、年寄りを苛めんといてくれぇ!」


愛らしい外見からは想像もつかない、皺がれた男の声。


「さっさと言え! さもないと……」


着ぐるみの首をぐっと締め上げてやると、中身は苦しそうに呻き、必死で叫んだ。


「この先だ! この先の拝殿に女はいる! だから早く離してくれぇ……」


健吾が食らわせた当て身によって、着ぐるみの主は気を失った。引き剥がされた被り物のその下にあったのは、齢70を越えているだろう、老いた男の頭だった。


愛らしくデフォルメされたその被り物の下には、醜い素顔が隠されていたのだ。


「うへっ、ちょっとでも可哀想と思ったのは間違いだったぜ」


気を失っている老人を茂みの中に隠し、健吾はそのまま先へ進むことにした。健吾は自分がアクション映画の主人公であるかのように思えた。幼い頃、ジェームズ・ボンドやチャールズ・ブロンソン、シルヴェスター・スタローンに憧れ、近所の年下のガキ相手にバカな映画ごっこをやって、何度も大人達から雷をくらったか分からない。


桐原美佳――最高に綺麗で、超絶魅力的な女。もし彼女を助け出すことができれば、必ず俺になびいてくれる。今までは俺が献身する側だったが、それも逆転だ。あの高嶺の花が自分にひざまづく様をその単純な脳内で想像し、健吾は興奮せずにいられなかった。




幸いにして、他の村人に遭遇することはなかった。三十分以上かけてひたすら歩いていると、辺りの状況が目に見えて変わりはじめた。樹木に混じって、やたら古びた着ぐるみが並んでいる。最初は人かと思って驚いたが、どうやら人並みの大きさをした柱に立てかけたもののようだ。ライオンや熊といった馴染みのものから、江戸時代の妖怪絵巻物に描かれているような得体の知れないものまで、たくさんの着ぐるみオブジェが不気味に立ち並んでいた。


どれもがかなり年月を経ていて、愛嬌のあるはずの着ぐるみの顔は、泥や虫の死骸にまみれ、怪しくにやけているように見えた。


「おお」


急に声を掛けられ振り返ると、駐在がいた。


(続く)

次回更新は10月25日18時です。

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