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恐怖!着ぐるみ村  作者: エンジン
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古社のヒミツ

知らない鳥の鳴き声が響く森の中を、美佳は一人進んでいく。最初の内は面白いかもと思っていたが、歩いても歩いても同じような景色が続くばかりで、足も疲れてきた。でも、今更引き返すのも何か嫌だ、せめて何かを見つけてから帰らなきゃ損よ、そんな浅はかな考えで、見知らぬ場所を闇雲に歩き続けていたのだ。


だが、彼女の願い叶ってか、もうしばらく歩いた時、何か小屋のようなものが見えてきた。美佳の好奇心は再燃し、先ほどまでの疲れもなんのその、一気に走った。


その建物は先ほど健吾が入っていった納屋と同じぐらいの大きさだった。が、白塗りの外壁や朱色の屋根、そして入り口の前に掛けられている、くずし字で書かれた札と榊の葉で装飾された飾り物が、何やら重要な場所であることを予感させた。


「……覗くだけならいいわよね、ちょっとだけぇ」


閉まっていたら帰ろうと思って引き戸に手をかけると、思ったより簡単に開いた。そっと中に足を踏み入れる。真っ暗で何も見えなかったが、側にあったスイッチを入れると、オレンジ色の豆電球が点灯した。


そこら中に、たくさんの着ぐるみが乱雑に放置されていた。馬や虎など、一目でモチーフが分かるものもあれば、まるで妖怪のようなおどろおどろしい造形のものまであらゆる着ぐるみが集められていた。


その中に、一つ妙なものがあった。ぶち柄をした、犬の着ぐるみ。他の着ぐるみは力なくもたれかかるような姿勢で置かれているのに、それだけしっかりと起立した状態になっている。


「何かしら、これ……」


美佳はその着ぐるみに近づき、恐る恐る触ってみた。その瞬間、とてつもなく重大なことに気がついた。暖かい。この着ぐるみから、人のような温もりを感じる。


だがそれに気がついた時は既に手遅れだった。着ぐるみの右手が彼女の手をがっちりと掴み、残った左腕でかたくその身動きを封じてしまったからだ。


「お嬢さ~ん、迷子かなあ? おうちはどこかなあ?」


口を塞がれ、言葉に鳴らない叫びを上げる美佳であったが、もはや何もできなかった。そのまま着ぐるみの分厚い腕によって締め落とされ、彼女は意識を失った。



待ちぼうけを食らった健吾が、しょんぼりした気持ちを胸に宿泊場所に戻ってきたのは、辺りが薄暗くなり始めた頃だった。


宿泊場所とは言っても、このような小さな村に旅館やホテルがあるわけではない。大分昔、村民の学校として使われていた木造の小さな校舎を、宿泊施設として改修したものである。村民の寄り合い所や物置きなど、宿泊だけでなく様々な事柄に利用可能で、粗末ながら風呂場もちゃんと用意されている。


門の前で煙草を吹かしていた猛に美佳のことを聞いたが、返ってきたのは健吾自身が最も恐れる答えだった。


「桐原? まだ帰ってないが……」


「そんな!? んなはずねえよ!」


健吾は酷く焦り、落ち着かない調子でまくし立てた。


「こんな場所でずっと戻ってこないって、それやばいですよ! 事故じゃないですか!」


「お前等、一緒じゃなかったのか?」


「い、いえ、途中で別れたんです……でも! ひょっとして森の中とか入り込んで、遭難とかしてたら!」


美佳さんが危ないですよ! いつになく必死な健吾の声を聞き、建物の中から南と貢もやってきた。


「俺、今から探しに行きます! 美佳さん、きっと今頃泣いてますよ!」


「で、で、でも、よ、この辺りの夜はすごく暗いですよ」


貢の余計な一言に、再び健吾が怒る。


「あぁあ! お前美佳さん見捨てるのかよ! 死んでもいいっていうんかよ!」


「そ、そんなこと言ってないです……」


「じゃあどういう意味だよトロマ! お前ちょっと勉強できるからっていっつもうぜえ真似しやがって! 美佳さんはお前のこと嫌れえなんだよ! だからいなくなったかもしれねえじゃねえか! もしそうだったらお前殺すぞ!」


「落ち着け! とりあえず落ち着け!」


怯える貢に一方的にがなり立て、つかみかかろうとする健吾を猛が必死に制止しているところへ、ニ体の着ぐるみがやってきた。


一人は昼間出会った縫原栄の着ている、とんがらし大王。そしてもう一体は、頭にちょこんと警察帽を乗せ、自転車を引いている、ぶち柄の犬だった。


「ちょっと聞かせてもらったけどよお、えれえことらしいなぁ」


「おばあちゃん、どうしよう」


弱り顔を見せる猛とは対照的に、着ぐるみの二つの顔は可愛らしくはにかんでいた。


「なぁに、村の頼りになるもん呼んで、今から探してもらえばいいんやぁ、心配すんな」


「本官が隅から隅まで捜索しますので、お任せを!」


「本当ですか!? そりゃ有り難い」


「俺も行きますよ! 俺のせいで美佳さんが迷子に……」


「だめじゃらぁ、おっときィ」


「なんでだよ 緊急事態なんだぞ!」


いきり立つ健吾に対して、ぶち犬駐在の声は至ってとぼけていた。


「まあまあ、ここは本官にかかれば万事大丈夫――」


ぶち犬の柔らかい胸ぐらを、健吾が乱暴に掴んだ。


「ふざけんな! 美佳さんが死んでみろ! おまえ等村人全員訴えてやる!」


「ははは、これは困ったなぁ。若者は怒りっぽいなぁ」


「何だと!」


「まあまあ、とにかく落ち着いてぇな」


いきり立つ健吾の肩をポンと軽く叩き、栄がやさしくなだめる。


「もしそのお嬢ちゃんが帰ってきたときに、お兄ちゃんいなかったらどうだぁ? すごく寂しがるだろぉ? お兄ちゃんはお嬢ちゃんを出迎える役をやってくれ、頼むよぉ」


「でもよぉっ!」


「健吾、おばあちゃんの言うとおりだ。第一土地勘のないお前が言ったところで、ミイラ取りがミイラになるだけだ。ここは村の人達に任せてくれんか」


「……わかったよ」


健吾は俯き、しぶしぶ駐在から手を放した。


「なぁに、本官がきっと見つけて見せますよ。心配ゴムヨー! ははは!」


都会の若者による無礼を気にするそぶりもなく、犬の駐在は自転車にまたがってもこもこした足で器用にペダルを漕ぎ、去っていった。


(続く)

次回更新は10月21日18時になります。

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