残酷な儀式
南が危機に陥っている最中、貢と猛は村にただ一つの宗教施設「包神社」へと向かっていた。その道中には古びて形が崩れ、おぞましい形相となった着ぐるみ達がまるで地蔵のように祀られており、それが夜になると一層不気味さを醸し出している。
「村の人間達が使っていた着ぐるみさ。持ち主が死ぬと、人間の墓とは別にこうやって祀られるんだ」
唖然として着ぐるみの列を見ていた貢に、猛がいった。
「この中には俺の家族もいる。いずれは俺もここに並ぶのかもな」
「じゃ、じゃ、じゃあ、先生も着ぐるみを!?」
「そんなに怖がるなよ。俺はこの通り、大学で教鞭をとってる、今までお前等の前に着ぐるみ姿で現れたことがあるか? いくら故郷ったって、狂った村人の味方はしないよ」
「で、で、ですよね、す、すいません」
いつも通りの穏やかな返答に、貢は安心した。
無限に続くかと思われるぐらいの抜け殻達の行列とすれ違い、やがて大きな建物が見えてきた。こうごうと燃えさかる篝火によって、そこは夜にも関わらず非常に明るかった。木材の痛み具合、所々にできた染みなどから、かなり年代を経た建物であるということはすぐに分かる。
能の舞台のようなその場所は非常に広く、村人何十人がごった返してもまだ余裕があるのではないかと思われた。この照らされた壁には、江戸時代の獅子や象をかたどった着ぐるみが、狸やうさぎの着ぐるみと仲睦まじそうに戯れている絵が描かれていたが、それに混じって、おぞましいものもあった。
嫌にぶくぶくとした男女が、着ぐるみ達の持つ刀や鎌、その他様々な農具によって串刺しにされ、夥しい量の血を流しながらのたうち回っている様子が、他の可愛げある絵と同じ調子で描かれていた。
「これが着ぐるみ様の儀式さ。着ぐるみに包まれた生け贄は意識のあるまま滅多刺しにされ、炎の中に捧げられる。まさか、今でも行われていたなんて……」
「ひ、ひどい……」
「ほう、村のしきたりを愚弄するか」
貢がはっと振り返ると、栄が立っていた。最初に素顔を見た時、もう腰が曲がっていてもおかしくないような年齢を感じさせたが、今の彼女はとんがらし大王の着ぐるみに身を包み、二人の前に立ちはだかっている。
「まあ、都会のもんには分からんだろう。実際に体験してみれば、その偉大さが分かるというもの」
「な、な、何を言ってるんだ!?」
「お主は着ぐるみ様の男形となるんじゃ、光栄に思えよ」
「そ、そんなものには、ならない!」
今まで誰にも見せたことのない、強い反抗心の籠もった表情を貢は浮かべた。
「け、健吾さんはどうした! 健吾さんを返せ!」
着ぐるみの中の老婆は嘲るように笑いながら、黙って右を指さす。その方向、祭壇からやや外れた所に置かれた灯籠の下、健吾の亡骸が力なく横たわっていた。
「その汚らしい都会ものも、立派な役目を果たすんじゃ」
「貴様ぁ!」
貢は大声を張り上げ、栄に向かっていった。そしてそのまま、彼女を怒りのままに殴りつける――
と、本人は願っていた。
だが、その願望とは裏腹に、彼の身体は地面に向かってうつ伏せに倒れていった。何が起きているのかすら分からぬまま、右腕がねじられ、強烈な痛みが流れる。そしてその後、すぐさま腹部に打ち込まれた強い衝撃により、彼の眼前は暗闇に包まれた。
(続く)
次回更新は11月6日18時です。