プロローグ 獣たちの密談
囲炉裏から流れる薄明かりを囲みながら、異様な姿の者達が話している。
「そんなもの、何十年も昔の話じゃねえかぁ。今の時代にゃ到底そぐわね。わざわざ村の外から人間を呼んでやるっていうのは……」
人間サイズの巨大な三毛猫の言葉を、向かい側にいたヒョウが「黙らんか!」と遮った。
「何が今の時代か! 何が外か! おめえはこの村より都会、外が大事ってえか!?」
怒声こそ迫真に満ちているが、ぼんやりとした火に照らされたそのぬいぐるみ的表情は、愛嬌たっぷりに笑っていた。
「着次郎どんの言うとおり! 村の存続の為にゃあ伝統の存続、不可欠不可避であるっちゅうのが何故分からん!」
隣にいたニホンザルが、ヒョウに雷同した。それにつられて周辺の可愛らしい動物達も「そうじゃ!」「その通り!」と次々賛同の言葉を口に出す。
「わ、わかってくだせえ!」
追いつめられた三毛猫は、輪から離れた暗がりに座っていた影に救いの声を求めたが、それはあっさりと裏切られた。
「五十年に一度のしきたり、行わぬ理由など一切無し」
「そ、そんな……!」
にこやかな微笑みを浮かべながら絶望する三毛猫に、影は冷徹な言葉を投げかける。
「それに従わぬ者、皆死罪なり」
ヒイッと叫び声を挙げ三毛猫はその場から逃れようとしたが、背後から伸びたふわふわの肉球によって身動きを封じられてしまった。
「皆狂ってる、狂ってるんじゃあ……ぐぶっ」
黒く錆びた山刀によってその腹を裂かれ、三毛猫は不健康そうなどす黒い血をおびただしくその場に垂れ流しながら微笑みとともに絶命した。
その様子を見て、彼を殺めた張本人は何とも愉快そうに言った。
「また着ぐるみ汚しちまったぜ。代わり作ってくれよな」
(続く)