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天嵐の龍  作者: 誇張蘭
第二章 伝説殺しの英雄
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詰問


 部屋を出てすぐ、そっとスマホを取り出すと鳴鹿からのメッセージが入っていた。いろいろと書かれていたが、要約すると、講義後に話すので帰ったら許さないとのことらしい。

 さて、どこで時間をつぶそうかな。

 さっきまで僕と衣隠さんがいた空き教室に行ってもいいが、そこには教授らしき人がいたので、覗くだけ覗き、立ち去る。仕方なく、学生たちが勉強のためによく使っているフリースペースに立ち入った。さっきの空き教室よりかは少し広く、円卓が数個とその周りに椅子が並んでいる部屋だ。今は講義の時間帯なので学生もまばらにしかいない。窓際にある椅子に腰かけ、スマホをもう一度見る。

 ここで連絡を無視して帰るほど、僕も性格が悪いわけではないし、そもそもそんな勇気はない。帰ろうが帰るまいが、どうせ怒られるんだ。それが今日か明日かの違いというだけである。しかも明日になったら怒りの度合いが変わる。ならば大人しく今日のうちに話した方がいいだろう、と思ってのことだ。

 その話の内容をどうするかなんだよなぁ。先にも言ったように、情報を開示するということは、否応なくそれに巻き込むということになってしまう。

 では話さない方がいいのか。

 それもまた考えものだ。

 相手方がどこまで情報を得ているのかは知らないが、僕たちが龍の末裔であると知られているならば、むしろ鳴鹿に話をして、注意喚起をした方がいいのではないか。

 とあーだこーだ考えていると、ふと頭に浮かんだことがあった。

 それは御土のじいさんと話していた時に出てきた話題。というか話の本筋だ。

 本筋であり、本題。

 そもそも何故、我らが蛇沢未朽が狙われるようになったのか。そこを思い出した。大体が、奴らの目的は蛇の殲滅であって、僕ら龍の末裔が狙いというわけではない。当然邪魔だてしようものなら、何らかの攻撃をされるだろうけれど、しかしだからと言って意味もなく無関係な人たちに害を与えるとは考えにくい。

 彼らにとっては、その意味が、とても大切なことだったから。かつてその意味がなかったからこそ、一度窮地に立たされたのだ。その逆境で作り出された、意味。

 戦う意味。生きる意味。

 それがあったからこそここまで来られた。しからば、その意味を無下にすることなどできまい。彼らはその心内に存在する意味に忠実な、目的に従順な、そんな英雄になったのだ。僕はじいさんの話から、そんな印象を受けていた。

 蛇を殺したいという感情、むしろそれ以外は眼中にないといったふうだった。

 今回の場合、未朽さんを狙っているのが若者(御土のじいさん曰く)なので、その他の古株に比べて蛇への憎悪は深くないと言っていた。それがどこまでのものなのかは、実際にこの目で見てみないことには何も言えないが、しかし、それでも、その根源にある蛇への憎しみからは逃れられないだろう。

 やれやれ、本当、厄介な人たちに目をつけられたものだ。

 ということは、僕たちの行動もそれに合わせたものとなる。こちらからちょっかいを出さなければ、矛先が自分に向くことはない。つまり、このまま鳴鹿に何も話さなければ、危険度は低いままということだ。むしろ話したことであいつが暴走しようものなら(あるとは思えないが絶対にないとも言えない)、それこそ藪をつついて蛇を出す行為に等しい。

 ここでこの諺は実にややこしいけれど。

 だとしたら、やっぱりごまかした方がいいのだろうか……。

 四時限目の講義が終わるまでに、なんとか答えを出し、あいつの詰問に応えねば。

 あるいは耐えねば。

 そもそも今この現状を知っているのは誰だろう。その人たちは、どういう行動をとるのか。

 えーっと。

 まずその情報を持ってきた御土のじいさん。

 狙われてる本人の未朽さん。

 さっき話をしていた衣隠さん。

 そして自分。

 今現在で僕が把握しているのはこの四人か。

 なんか他の三人は、どういう行動も何も、どうにでもしてしまいそうな感じがする。参考にはとてもじゃないができない。

 ただ衣隠さんは、この件に関して手を出さないというか、自分で出番はなさそうと言っていたもんな。その真意はわからないけれど、たぶん未朽さんへの信頼ゆえだろう。

 そしてじいさんに関しては、これは全くと言っていいほどわからない。たぶん、僕が考える限りでは、あの人が直接表舞台に立って、英雄との接触をするとは思えない。むしろするとしたら、今回この情報を持ってきたように、裏で動き、暗躍して、こちらに利をもたらすだろう。情報戦において、優位に立てるように。

 しかしそれはあくまでも、するとしたら、の話であって。

 やっぱり最初に僕に情報提供をした時点で、彼の役割は終わっているのかもしれない。そう考えた方がしっくりくるような気もする。いかんせん何度も会っているわけではないし、そうでなくともなかなか掴めない人なのだ。

 ああいうのを、老獪、というのだろうか。

 どちらかと言えば妖怪の方がしっくりくるが。

 少なくとも、自分はあんな老人にはなるまいとそう心に決める。

 果たしてそこまでの年齢に辿り着けるかは、置いておいて。

 まぁ少なくとも、じいさんが積極的にここから動くことはないだろうと、そう結論付けた。

 そして龍の末裔、残るは七人か。

 本家を除けば六人。

 鹿。

 駱駝。

 兎。

 鯉。

 虎。

 牛。

 そしてそのほとんどが年下。

 鳴鹿はとりあえず別にして、その他の彼らには話さなくてもいいかと思う。子供は無茶をしがちだからな、とここは自分を棚に上げてそう言っておこう。そんなことをつらつらと考えているうちに、もう講義が始まってから一時間近くが経過していた。

 残り時間は三十分程度。

 周りを見れば、まばらにいた学生たちの姿はなく、部屋には自分一人しかいなかった。

 そろそろ結論を出さないといけない。

「あ、ここにいたんだ」

「えっ?」

 出さないといけないなんて思った直後、なんと本人が出てきてしまった。背後からは心臓に悪いのでやめて欲しい。

 というか、あれ、僕の時計くるってるのかな。

 針がくるくるし過ぎておかしくなったか。

「ふふ、九鬼くんあの講義取ってないから知らないんだよね。あれ、結構早くに終わるんだ。今日なんか四十五分くらいかも」

 何ということだ。

 そんな短い時間で終わるのなら僕も取ればよかった、と後悔する一方で、そんなことを考えている場合ではないとも思う。

 大体こちとら授業料をきちんと収めているのだから、その分の時間はきっちり講義にあててほしいものである。よく講義一回はいくらだとか、学費から計算する人もいるけれど、それならそれで先生のほうもそれに見合う授業をしてくれないと困る。

 具体的に言えば、今現在僕が困っている。

 一時間半やれや。

 なに早く終わらせてんだ。

 その分テストはきつくしろよ。

「なんか理不尽なこと考えてそうだけれど。それにしても帰ってなかったのね」

「何だよ、僕が帰ると思ってたのか?」

「んー、まぁ半分くらいは」

 半分もあれば上々である。

 帰ればよかった。

「でも、いてくれてよかったよかった。少し探しちゃったしね。それで、話の続き、してくれるわよね」

 続きも何も、まだ何も聞いていないのだけど。

 そう言って正面の椅子に腰かける。手に持ったかばんは隣の椅子の上に立てかけて。

 どうやら逃げ場はないな。

 鬼の目にも涙である。

 ここでの意味は全く違うけれど。


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