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天嵐の龍  作者: 誇張蘭
第二章 伝説殺しの英雄
29/61

対談終了


 具体的な対応策については私に一任してと言ってくれた、衣隠さんと違って快活な笑顔で。彼女にはちゃんと考えがあるらしい。気にはなったのでそれをそれとなく聞いてみると。

「私たちは龍の九似として、それぞれがそれぞれに合った能力を持っている。そして前回の天狗の時もそうだったろう? 天狗らしい力だったと聞くよ。そう、伝聞は嘘をつかないのさ、きっと伝承にある通り、スサノオはスサノオらしい力で向かってくる」

 と返してくれた。だからこそ、対応が出来る。とも付け加えて。なるほど確かにそれはその通りだと思う。彼らだけが、伝承から外れた特異な力を持っているとは考えにくい。勿論個々による差はあるだろうけれど、しかしそれもスサノオとしての能力の一端だろうから。

 これで堅苦しい話は終わりとばかりに未朽さんは別の話題を持ち出してきた。

「ところでさ言葉、あの子とはどうなのよ」

「あの子、とは」

「とぼけてんじゃあないよ、菊秋きくあきさね」

 はぁ、何でこのくらいの年齢の人は若者の色恋沙汰に首を突っ込みたがるのだろうか。いや、先ほども言ったが、別に未朽さんがそこまでのおばさんとは思わない。そして僕と彼女は決して色恋沙汰には発展していない。

 訂正していえば、若者の男女が一緒にいれば色恋沙汰になると思っている、という感じだな。

 僕と彼女は確かに昔からの知り合いではあるが、そんなことにはなっていない。今は。

 彼女。名を鳴鹿なるか菊秋という。

 簡単に他者紹介させてもらえれば、彼女は僕と同じ大学生で同じ龍の末裔である。

 終わり。

 ………………。

 終わりである。

「別に、鳴鹿とは何にもないですよ」

「またそんな冷たくしちゃって、昔はそんなんじゃなかったのに」

「えっ、未朽さんて昔の僕たち知ってましたっけ?」

「んーん、適当に言ってみただけよ」

 えへへ、と笑ってごまかされた。ごまかされたと感じたということは、適当に言ってみたって言葉自体をごまかしたのかもしれない。僕には小さい頃に未朽さんと会った記憶はないのだけれど、龍の末裔同士何かしらの関わりがあったって不思議ではないよな。

 龍の末裔同士とは言っても、その時僕はまだ末裔たる力はなかっただろうが。

「とにかく、僕たちは龍の末裔以外に特別な関係はないですから」

 特別な関係はない。

 特別な感情もない。

「こんなこと言うと、それこそおばさん臭くなっちゃうけどね、それにどこかで聞いたことあるかもしれない、でもそれはやっぱり真実だと思うから言わせてもらうわ」

 途端に真面目そうになる未朽さん。何なんだろう、どことなく想像はつくけれど。

「学生時代っていうのはそれはそれは大切な時期なのさ、当人は何にも感じないかもしれないけれどね。いつだって渦中の中の人は、自分の状況に気づきにくい、それは外から見ている人間にはとてもとても分かりやすいことなのに」

 すっかり冷めてしまったお茶を一息で飲み干して、未朽さんは窓の外に目をやる。その横顔は今までに見たことのないような表情をしていた。どこか昔を懐かしむような、過去に思いを馳せるような。少なくとも、今の僕には出来そうもない表情。

「今しか出来ないこと、それを見つけてね」

 そのままの視線で優しくそう言う。これが歳の差なのかな、それとも母の力、か。

この言葉を心に留めておこう。今しか出来ないこと、それは決して学生時代に限られたことではない。『今』とは常に流動するものであって、この『今』も一秒後には過去になる。そしてまた『今』が来る。

 その時に出来ること、それらをきちんと考えていこう。一年後、五年後、十年後の『今』に出来ること、それはきっとその時にしか出来ないことなのだろうから。

 なんてそれらしいことを言ってみても、十年後に僕がどうなっているかなんて誰にも分からないことなんだけれどね。龍の末裔たるこの僕があと十年生きられるかどうかは、正直に言って本当にわからない。

 いや、本当に正直に言えば、無理と言うのが僕の思いである。先ほどのは、希望的観測を含めた上での考えであって、あと十年、即ち三十路になる頃まで僕が生きられるわけがないだろうな。

 それならば、と考えてしまう。今は大学一年生の、世間的に見てもまだまだ子供な年齢。だけれど、龍の末裔としてはもういい歳だ。

 いい歳というのはすなわち、結婚してもおかしくはないということ。むしろ早めに結婚をして、子孫を残さなければならない。寿命を削って力を発揮している以上、一般的なそれよりも早く。

 龍の子孫を、残す。それが僕たちに課せられた宿命の一つでもある。

 それは生物本来の根源的な本能でもあるのだろうけれど。

 本音を言えば、そう言ったことを考えるのは意識的に避けてきた。昔は勿論そんなことを考えもしなかったけれど、こんな年齢になってくるといやでも頭の中に浮かんでくる。それをなんとか外に追い出してきた。

 ただ、実際にこうやって龍の末裔として生活しつつも、結婚をし、子を持ち、家族として暮らしている人を見ると、自分もいずれは、と思わざるを得ない。否応なしに考えさせられる。

 僕は物思いにふけり、未朽さんは未だ窓の外を見ている。

「あっ」

「んっ?」

 そう言えばもう一つ聞かなければならないことがあったんだった。すっかり忘れていた。

「どうしたのさ言葉、いきなり声出して」

「いや、これも御土のじいさんからなんですけれど……」

 と、そこまで言っておいて、このあとどう言おうと悩んだ。つい思い出したからそのまま話を続けようとしてしまったけれど、こんなことを本人に直接聞くなんて。

 じいさんのこと嫌ってるんですか?

 とはとても聞けない。

「な」

「な?」

「なんでもないです」

 ジト目られた。

 そりゃあからさまに不自然だもんな。ええ、どうしよう。龍の末裔相手に自分の能力を遣うのも憚られるし。かと言って自然に聞く方法は……。

「――じいさんは、なんでわざわざ僕にここまで来させたんですかね」

「…………」

 いきなり過ぎたのか、黙られてしまった。ここからなんとか話題を持っていけないかと思ったんだが。

 すると未朽さんは急に表情を柔らかくして口元に小さく笑みを作る。

「ふふ、そうね。直接くればいいものを、一度言葉に伝えてから、まるで伝言ゲームのように私のところへ……」

 未朽さんはそれが面白いのか、声を出して笑い始めてしまった。今度はこちらの頭にハテナが浮かぶ。僕そんな面白いこと言ってないよな。

「まぁいいわ、そのことに関しては。それにさっき言葉が言おうとして言わなかったことも、もう聞かない。なんとなくわかったからね」

 最後にニコッと笑ってそう締めくくった。僕としては詳しく教えて欲しかったけれど、こんなふうに話を終えられては追及しにくい。

それにしてもいい笑顔だ。

誰かさんと違って。

「さぁて、どうする言葉、今日はウチで晩ご飯食べていくかい?」

 そのままの調子で今度は未朽さんに話題を変えられてしまった。

 はぁ。

「いえ、遠慮しておきます。せっかくの団欒に割って入ることはできません」

「またそうやって、気にし過ぎなのよ言葉は」

 気にし過ぎ。

 きっとそうかもしれない。本当だったらここで喜んでこのお誘いを受けておくべきなのだろう。未朽さんのことだ、社交辞令でこんなことを言ってはいないし、久散さんもきっと迎え入れてくれる。

 しかし僕はその中に入ることは出来ない。出来ないというのはさすがに大げさかもしれないけれど、でも、やっぱり遠慮させてもらおう。

「溜息はあんまりしたくないんだけれど、はぁ。ま、そういうところも含めて言葉らしいということにしておこうかしらね」

 そんな僕を見かねてか、未朽さんは強く押すのではなく、あっさりと引いてくれた。申し訳なさが心に生まれるけれど、ここでごめんなさいと言ってもまた呆れられるだろうから、別の言葉で返す。

「また機会があれば、お願いします」

「はい、また今度、ね」

 そして今日の日程が終わる。

 結局僕がいる間に久散さんが帰ってくることはなく、無朽ちゃんも起きなかったので、未朽さんにだけ挨拶をして、帰宅と相成った。

「じゃあ気を付けて帰りなね」

「お邪魔しました」

「今度は菊秋とおいで」

「だから……まったく」

 ニコニコしながら玄関先でそう言われた。

 それに今度は反論することなく、溜息と苦笑いを返して、背を向ける。

「そうだ! 言葉!」

 そうして僕が歩き出そうとしたところで、何かを思いだしたかのように未朽さんが呼び止めてきた。

「な、なんですか?」

「まだ和菓子屋さんのお店教えてもらってないんだけど?」

蛇は和菓子が大好物なんて話、あったかな。


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