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天嵐の龍  作者: 誇張蘭
第一章 兎攫いの狗
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四人四色

 九鬼と鷹宮が二人を残して去ってまもなく、鳴鹿が目を覚ました。少し頭を振って、そのままきょろきょろと周りを見る。現状が全くもって把握できていないようで、その顔には疑問符が張り付いていた。

 ようやく目の前にいるのが、自分が助けるはずであった一兎であることに気づいて、声を出す。

「きさ、らぎ……さん?」

「あ、菊秋さん! 身体は大丈夫ですか、どこか痛いところは」

「え…っと、ちょっと頭がずきずきするけど、平気、だと思う」

 彼女にしてみれば、これから小屋の中へ突入というところで意識を失って、気が付いたら拉致されていた女の子に心配されているという、世にも奇妙な場面に遭遇しているわけで、何が起きているのかわからなくても無理はないのだけれど。

 今自分がどこにいるのかも定かではないはずだし、それに。

「あれ、九鬼くんはどこ」

 一緒に来ていた男の子もいないのだから、それはもう混乱に混乱を重ねているだろう。

 一兎も似たような体験をつい最近したばかりなのだから、その気持ちはわからないでもないが、しかし彼女の場合は空を飛んで拉致されたということだけはわかっていたのでここまでは動揺しなかった、と思いたい。

 実際の状況は、一兎の方がはるかに危険で深刻なものだったのだが。

 鳴鹿の場合は、何がどうなったのか、誰が(自分も含めて)何をされたのかもわかっていない状態である。

 とりあえず、自分のわかる範囲で今までの出来事を話して聞かせることにしよう。


 ――――女子トーク中――――

 ――――女子トーク中――――

 ――――女s


「そっか、そんなことが……」

 聞き終えた後の菊秋さんはどこか浮かない顔だ。それはきっと今戦っているであろう二人の心配ではなくて、そんなに大変なことがあったにも関わらず何もできなかったどころか、足手まといになってしまった自分への反省と後悔故だろう。

 気を失っていたことについては、あの二人も何も言わないはずだし、当然あたしも菊秋さんを責めるなんてことは出来ない。元々あたしが原因で始まってしまったことだし。

 でも、本人がそれを認めないのだろう。あたしがこうやって助かっていることを手放しで喜べるほど、能天気ではいられない。

 だから、「そんなに自分を責めないでください」なんてことも言えない。そんな無責任なことは、決して。

 こういう時は話を変えよう。

「言葉さんと衣隠さんは、大丈夫です、よね」

「え? ああ、そうね」

 なんときょとんとされてしまった。

 何を当たり前のことを聞いているんだみたいな顔だ。ふむ、でも確かにあの二人に限ってめったなことは起きないか。特に衣隠さんはピンチになることすら考えられない。さっきの小屋崩壊にしたって、あの人だけは無傷で立っていそうである。

 あたしたちだって人間とはまた違う存在ということになるのだろうけれど、彼女だけはそこからもさらに外れた、食物連鎖の外というか、ヒエラルキーの圏外にいるようなお人だ。

 鷹宮家の人というのはみんなああなんだろうか、衣隠さんはあまり家のことを話したがらないからわからないことだらけである。

 そういえばあの人は鷹宮家の次女だったっけ。あたしたちの力は例外なく、長男長女に継がれるって聞いたから、本来は衣隠さんじゃないはず。

 衣隠さんのお姉さん(お兄さん?)ってどんな人なんだろう。今あの人が力を持っているっていうことはきっともういないんだろうけど、やっぱり気になる。言葉さんは仲が良いから少しは事情を知っているのかな。今度聞いてみようかな。本人が言わないことは聞かない方がいいのかな。

「如月さん?」

「あっ、はひ!」

 ぼんやりとしていたところに声をかけられて、変な反応をしてしまった。

 はひって何だ。

「これからどうしましょうか、如月さんも怪我してるみたいだし、下手に動いてあの二人を困らせることになるのも避けたいよね。……ほっぺ、大丈夫?」

「これは大丈夫です、もう血も止まってますし。これからについては、そうですね。あたしもここで待ってた方がいいと思います」

 ここからでも上の様子は覗けるはずだしと思って見てみるが、二人の姿も天狗も確認できなかった。反対側にいるのかもしれない。二人がここを離れてからどれくらい経っただろうか。菊秋さんに事情を説明していたし、それなりに時間は過ぎたかな。

 自分が助かって、鳴鹿も目を覚まし、天狗と戦っているのが鷹宮(と九鬼)だからだろうか、一兎は今完全に安心しきっていた。今までずっと張りつめていたせいもあるだろう、その反動で彼女の心は緩みきっていた。

 そしてその時が来るまで背後から近づいてくる気配に気づくことはなかった。

 後ろにある茂みから音が聞こえたな、と思って振り向くと、突然それは飛びかかってきた。急な出来事に思わず声を上げてしまう。

「きゃあっ‼」

と。


「一兎‼ 大丈、夫……か?」

 悲鳴が聞こえてすぐに駆け出し、二人がいるであろう場所に飛び込んで見たものは。

 兎を抱きかかえている兎、ではなく一兎であった。

 は? え?

「あ、言葉さんおかえりなさい~」

「はあ、ただいま。……あれ、今の声って一兎じゃなかったのか」

「ああ、ごめんなさい。この子が急に来たから」

そう言って腕の中にいる兎を撫でる。されるがままの兎はなんとも気持ちよさそうな顔だ。

 何だろう、兎同士惹かれるものがあるのかな。そうだとしたら鬼の僕はどうなってしまうのやら、天狗のいる世界に鬼がいないとも限らないし、元々龍がいた町である。もはや何が出てもおかしくはないか。

 鬼退治の際にはぜひともお供させていただこう。鬼退治に鬼を連れて歩くと言う斬新さよ。

「およ、きくちゃん起きたのね。おはようさん」

「おはようござい、ます。」

 走り出した僕のあとから現れた衣隠さんから、声をかけられた鳴鹿だがさほど驚いた様子はなかった。そういえばこの人が登場したのは鳴鹿が気絶したあとだったはずだが、まぁ一兎から色々と聞いたんだろう。

 その鳴鹿と目が合った。パチリと。

 正直、少し気まずい。

 二手に分かれようと言ったのは僕だし、その結果鳴鹿はこんな目に合ってしまった。どうせコイツのことだから、何もできなかった自分を責めていたことだろう。

「わるか「ごめんなさい」

僕が「悪かった」とそう謝罪の言葉を述べるところで、割って入られた。見れば鳴鹿が頭を下げている。おいおい。

「私が下手をうったせいで色々と迷惑をかけて」

「お前が謝ることないだろ、作戦は僕が立てたんだし」

「でもそれに同意したのは私、そこから先は個人の問題のはずよ」

「根本的な原因は僕だ、だから――」

「はいストーップ、痴話げんかは家でやってください」

 待て、誰と誰が痴話げんかだ。

「責任の取り合いは見てらんないのよ、そんなことより今こうやって全員が無事なんだからいいでしょ。まったく……私にまともなこと言わせないでよ!」

 それはごめんなさい。本当に。

 確かにそれはまともな意見なだけあって、異論はなかった。目的を達成したならばこんなところに長居は無用である。とっとと家に帰りましょう。

「あれ」

皆が山をおりようとした時、一兎が何かに気づいたように声を出す。

「どうしたんだ」

「いえ、あの、この子何か咥えているみたいで」

そう言われて、兎の口元をよく見ると確かに何か細いものを咥えていた。はて、どこかで見たことがあったような、ええと。

 あっ。

「あっ、それ私のヘアピン‼」

僕の心の声と鳴鹿の発した声が見事にマッチして、一人で少し恥ずかしがる。

しかしその目利き通り、兎が持っていたものは鳴鹿が天狗に連れてこられた時には既になくしていた、例のヘアピンであった。

 兎を刺激しないようにそっと取り出して、大事そうにしまう。さすがによだれまみれのそれをすぐにつけるようなことはしないか。

「ありがとうね」

 そう言って頭を撫でてあげると、途端に兎は一兎の腕の中から飛び出して森の中へと消えてしまった。

 これだとまるで鳴鹿にヘアピンを届けに来たみたいではないか。もしくは彼女が持つ潜在的な怖さに、野生の勘が逃げろと命じたのか。後者だったらロマンチックさの欠片もないな。

「ちょっとちょっと、私の眼鏡は! 何できくちゃんのだけ持ってきてるのよ」

 その一連の流れを見ていた衣隠さんは不満そうな顔をする。野生の兎に何を言っても無駄でしょうに。

「ストックがあるんでしょ、ほら、行きますよ」

「うーーー、次あの子を見つけたらお仕置きね」

 次も何も、もうこんな山はこりごりである。


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