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拝啓、『普通』の方々へ。

 この世界の神様は何を思ったのか、ごく一部の人間たちに訳の分からない『恩恵』を与えた。といってもこれはもしこの世界に神様がいたとしたら、という仮説を立てた上での例えだけれども。もしかしたらこの『恩恵』は神様が仕組んだものではないかもしれない。ある日突然空から宇宙人が舞い降りてきて人間たちにこういう力を渡したのかもしれないし、未来から来た科学者が人々の潜在能力を引き出せるような道具を現代の人間に託したのかもしれないし、まあそんなことは大体どうでもいいことだからこれ以上は考えるのはやめる。

 幸か不幸かはその人たちのさじ加減として、そんな『恩恵』を授かった人間たちは何事もないように今日ものんびり毎日を過ごしています。






*************






 4月。

 ぽかぽかとした眠気を誘う穏やかな風が吹く。時刻は朝の9時。気持ちのいい太陽の眩しい光は、小さな林の中にあるその山小屋にも爛々と差していた。

 山小屋にしては少々大きめなその家は、人の住むれっきとした一軒家。丸太を組み合わせて建てられたその家は外から見るよりも意外に中が広い。吹き抜けの広々とした空間はとても開放的で奥の方にはロフトもあり、何とも自由で独創的な作りになっている。そしてこの家のあるじはというと、天井からぶら下げられたハンモックで悠々と寝息を立てていた。

 小さな身体に似合わずその大きめな胸が、すぅすぅと小さな寝息とリンクして上下する。淡い黄色のワンピースに、オレンジ色のうにうにとしたボーダー模様、胸元には大きなリボン。ポケットからは摘み取ったばかりとも言える鮮やかなピンク色のツツジが顔を覗かせている。

 ハンモックが開けっ放しの窓から吹いてくる風にゆらゆらと揺らされる。身長が小さい分体重も軽いのでハンモックは少しの風でも揺りかごのように優しく左右に振れる。少女はもう19になるのだが、残酷なことにその身長は何年も前に伸びることを諦めてしまった。彼女はそれが少しトラウマである。時々体をもぞもぞ動かし薄ピンク色の髪の毛をぐるぐるといじる。あまりいい夢ではないのか、その幼げな顔には少し不自然な太さの黒いゲジマユ(というと本人は怒る。チャームポイントだから)がぴくりと動く。

 この家の周りは多くの草木に囲まれ、人の膝丈ほどの雑草が生え放題になっている。決して手入れを怠っているわけではなく、家の主の「その方がなんか落ち着くから」という理由からなのだが、訪問者にとっては少々迷惑なものだった。少なくとも、ここにほぼ毎日通っている友人らは毎回のように膝をくすぐられているのだから。




 人影が二つ。いつも通り、足元をむずがゆくしながら小屋へと向かい歩いてくる。

「んもお、あの子ったらまた寝坊してるんでしょ?全然電話に出ないんだもの!もう9時5分を過ぎたわ!まーたなんか先生に言われるのよも~~!」

「落ち着いて……遅刻なんて今更だよ。問題は、外に出るのか出ないのかという意思があるか無いか。お寝坊な眠り姫を目覚めさせて、その答えを聞き出すのが私たちの朝一番の仕事」

「そんなメルヘンな朝はあの子には似合わないわ!もっとこう、殺伐とした状況を作り出さなきゃダメ!もう二度と寝坊をしたくなくなるようなトラウマを残すのよ!」

 そう言う一人の手には、大きな……ハリセン。

「……そう考えた結果が、それか。璃奈、昨日のお笑い特番見てたでしょ。影響されてるね」

「あら、やっぱり分かるのね。あのハリセンは中々良い音がしてたわ。ネタも面白かったし!そういうカイラも、私が貸した小説読んでくれてるのね?その台詞は確か4巻の第二章に出てた気がするわ」

 そう返されて、ぼっと顔を赤らめるもう一人──カイラと呼ばれた少女。

「……よ、よく分かったね。なんで覚えてるのそんなこと……」

「私も好きな台詞だからよ。なんだか自分たちのことを言われてるみたいでね」

 小屋の玄関扉をバン、と勢いよく開ける。それなりに大きな音をさせたつもりだったのに、視界に映った少女は相変わらずゆらゆらと呑気に揺れていた。「お邪魔します」と今更ながらの小声で言うと部屋に上がり一目散にその眠り姫の元に駆けつける。大きく振りかぶるその手に光るは、巨大な真っ白のお手製ハリセン!

「マエル!!私のスペシャルなお目覚めのキス、受け取ってみなさい!!!!」


 ばっしーん!


 これ以上ない、とても気持ちの良い破裂音が林の中に響き渡る。






「……どう?」

「うん、目は覚めたっぽい。ただ、頭の中に星がちらついちゃってるね」

「あちゃあ、ちょっと力が強すぎたかしら?」

「璃奈……力みすぎなんだよ」

 クリティカルヒットしたハリセン目覚ましは予想以上の効果をあげ……むしろ二度寝よりもたちの悪い状態になった。ぐるぐると頭上を回る星がその威力を物語る。揺さぶっても、声をかけても一向に起きる気配がしない。普通に起こしていればいいものを、どうやら裏目に出てしまったようだ。

「これじゃトラウマも何もないね。失敗だよ。私が最初からクナイでも投げつけておけばよかったんだ」

「それじゃ本当に凶器じゃないのよ!最悪死ぬわ!ハリセンなら一つの商売道具として扱える、武器にはならないのよ!」

「璃奈のハリセンは例外として扱わないと駄目でしょ。実際、目の前でマエルは死にかけてる」

「ああマエルごめんなさい!私が悪かった、これからは普通に叩いて起こすわ!振りかぶらないし助走もつけないしなるべく痛くない場所を狙って連打するわ!だからお願い、目を覚まして!」

「それでもハリセンを使うことをやめようとしないその姿勢だけは賞賛に値するね」

 ハリセンを投げ捨てた璃奈は半泣きしながら、気絶している少女――マエルを抱きかかえその体を揺さぶる。と突然、マエルは「ぶはあ!!」と勢いよく息を吹き返した。

「っは!!なんだ!なにが起きた!なんだ!なんだなんだ!」

「ああっマエル!起きたのね!!よかった、死んでなくて本当によかった……!!」

「な、なんだなんだ!?璃奈顔ちけーよ!なんだよ死んだって!?誰が死んだって!?」

 あまりに突然の出来事にマエルは目を白黒させながら璃奈のその豊満な胸に顔をうずめている。その状況をそばで見ていたカイラは冷静に簡潔に、今の今まで起こっていたことを説明した。

「要するに、マエルを起こしにきたら璃奈が現行犯になりそうだったって話」

「いや意味わかんねーから!なんだよゲンコーハンって!?璃奈は一体なにをしようとしてたんだ!」

「ごめんなさい、あのハリセンでマエルを起こそうとしたら、力をつけすぎて一撃必殺みたいな技が出ちゃったのよ……!!」

 そう言って璃奈は先程投げ捨てたハリセンを指差した。それを見たマエルは、ハァ?という風に眉をひそめた。

「おま、ちょ、あれで殴ったの?俺をあれで殴ったの!?ばっかじゃねーのかよ!!そんなん死ぬだろどう考えたって!!まず大きさがおかしい!!ラフレシアくらいあるだろ!!逆に聞くが、あんなモンどうやって作った!?」

「画用紙と模造紙を何枚も重ねて強度をあげて、瞬間接着剤で頑丈にくっつけて、一晩乾かして作りました!徹夜したのよ!」

「そんな嬉しそうに話すな!!なんだその『俺やりきった』みたいな顔はよぉ!!オマエちょっと通報していいか!?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる二人の少女を横目に見つつ、カイラは懐から懐中時計を取り出す。時刻はすでに9時48分を回っていた。きっと今、この二人は本来の目的をもう覚えていないだろう。はぁとため息をついたカイラは、自分たちの通う大学に「お休みします」と連絡をするために時計をしまうと代わりに携帯を取り出した。電話帳に登録された数少ない電話番号の中から『大学』という名前で登録してある番号に電話をかける。2コール目でいつもの聞き慣れた事務室のお兄さんの声が聞こえた。

『はいもしもし、こちら委悉いしつ大学事務担当のあけぼのです~』

「おはようございます、ぼのさん」

『あ~、麓軸ろくじくちゃん?おはようございます。今日はどうしたの?』

「すいません、今日はちょっと急用が入っていつもの三人は学校行けませんって瑞樹みずき先生に伝えておいてくれますか」

『ありゃ、珍しいね~君たちが学校来れないなんて。……って、麓軸ちゃん聞いてない?』

「はい?何のことですか」

『いや、今日校長先生がギックリ腰で家から出られないそうだから元々休校なんだよ』

「……は?」

『おかしいなあ、一応教師全員に生徒へ連絡回してねって言ったはずなんだけど……多分瑞樹先生はもう回してると思うよ?』

「私たちのクラス、一番最初誰に回すことになってるんですか」

『あ~……確かマエルちゃんじゃなかったかなあ』

「……………………」

『んだから、そういうことで僕もお仕事終わったし、今から帰るとこだよ!君たちもとりあえず自宅待機?まあせっかくお休みになったんだからどこか遊びにいきなよ。今日はとても良い天気だよ!絶好のお出かけ日和だよね!』

「……分かりました、すみません。ありがとうございます」

 通話終了のボタンを押したカイラは、あまりの衝撃にしばらくの間その場を動けなかった。そして我に返り未だ言い争っている璃奈とマエルの方を向き、どこからか取り出した大量のクナイを一斉に投げつけた。グサグサグサ!……勿論、カイラの超絶テクニックによりクナイは璃奈を巧妙に避け、全てマエルに突き刺さる。

「ってーーーーー!!!!!なんだなんだ!!今度はなにが起きたんだもーーーー!!!!今日はあれか、あの……()()()か!?」

「その厄を招いたのはマエルでしょ」

「ちょ、カイラどうしたのよ急に!怖い、怖いわ!表情がもう人を殺すそれよ!?」

「ねえ待って!カイラちょっと落ち着け!?俺死んじゃう!その量のクナイはマジで俺しんじゃうううう!!!」

「さっきまでの同情なんていらない。璃奈、倍の強さでハリセンをぶっ放して」

 無表情で怒りを露わにするカイラから逃げるように部屋の中を跳ね回るマエル。璃奈はあわわわと慌てふためき、一瞬本当に警察に通報しようかと迷った。それから長い間ドタバタと逃走劇が繰り広げられていたが、しばらくするとマエルは息を荒げたままその場に倒れこみ……カイラも少しばかり疲れた様子を見せ……やがて大きく息を吐くと壁に寄りかかった。そして不安そうな表情をしていた璃奈に向かって言った。

「ほら、やっぱり最初から私が投げておけばよかったじゃない」

「……何があったのか分からないけど、とりあえず、またマエルのせいでどうにかなったってことね……」

「ほんとマジで意味わかんない……だれかたすけて……」

 ぜえぜえと息を整えるマエルは、そのままぐでりと床に寝そべった。

 彼女らの長い一日は、まだ始まったばかりだ。






この一話でマエル達の世界観とかせめて3人の能力の紹介とか色々する予定だったのにどうでもいいギャグドラマ(?)が繰り広げられるだけに終わった。多分まだ続く。だってこれ書きたかったこと全然取り入れてないじゃない!!マエルがアホで、璃奈がハリセン使いで、カイラが冷静ってことしか分からないじゃないの!!


すいません。続く。


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