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第二章 書かれた小説A

No.2

 一つの名称を認めるなら、

 一つの公式を認めるなら、

 一つの作品を認めるなら、

 一つの意志を認めるなら、

 一つの理性を認めるなら、

 人間的な物を一つでも認めるなら、全てに意味がある。全てに意味が在るとは、全てが人間的な物になり、それが全てになり、全てに絶対的に及ぶという事だ。

 全ては相対的なものなのだろうか? 何故それは、個別で、係わりの無い、繋がりの無い、理解の及ばない、比べることの出来ない、此処では無く、何処にも無いものと言ってはいけないのだろうか?


 《私は工場に勤める人間である。私は毎日働き、その事によって生活している。労働は人間の本質だ。人間は仕事をする事によってのみ人間となることが出来る。社会的に認められた仕事であるなら、なおさら良い。

 私は私の仕事に満足している。私は私の人生は良いものであると思っている。私には私の考えがある。私は私の考えが好きだ。外の人間は外の人間の世界があるだろう。私はそれを知ろうとは思わない。私は私の中に様々な私を楽しませるものがあるのだから。

 私はいつもの様に仕事を終え、自分のアパートに帰った。その日は雨で、駅から走って帰った。

 アパートに着くと、部屋の中に人が寝転んでいた。その人はうつ伏せのまま動かず、私に話しかけて来た。

……此処は私の部屋です。出て行ってください。

……此処は僕の部屋です。あなたこそ勝手に上がりこんで来てるじゃないですか。帰って下さい。

……此処は私の部屋です。あなたは間違っています。

……間違っているのはあなたではないですか? 取りあえず出て行ってもらえませんかね。

……あなたが出て行ってください。あなたの部屋はありません。

……何故僕が借りている部屋なのに、そんな事を言われなくてはいけないのか。まったく訳が分からない。

……あなたは濡れていますね。外は雨です。

……出て行ったら大変ですよ。

……出て行って下さい。傘なら有ります。

……それは俺の傘だ。ふざけるな。

……ふざけるのはやめて下さい。

……よく分からない。取りあえずあなたは誰ですか?

……あなたに言う事はありません。

……誰かと聞いているんだよ。勝手に来たくせに。名前ぐらい言ったらどうなんだ。

……あなたはだめだ。人間では無い。

……頭おかしいのか?

……あなたは頭がおかしいのです。だから自分の部屋だと思いこんでる。

……此処は俺の部屋だ! まあいいや、どうでも。

……出て行って下さい。

……嫌だ。

……あなたは、人間では無い。

……何だそれ、どう見ても人間だろ。人間で無いならなんだ。

……虫。

……虫? 虫って何だ。虫ですか、ところであなたは、ずっと寝てますね。

……此処は私の部屋です。外は雨なのでしばらく居る事は許します。しばらくしたら出て行って下さい。

……君の頭がイカレてる事は良く分かった。だが出て行く気はない。

……あなたは工場で働いていますね。

……そうだ、だから何だ。

……今すぐ、辞めなさい。

……何で? 変な心配しなくていいよ。何で知ってんだ?

……会社の人が可哀想です。私は何でも知っています。

……もういいや。出てけよ。疲れてるのにくだらない話したくない。

……くだらなくない。あなたが人間であるならその証拠を見せなさい。

……さあ? 見た目でいいんじゃないの? 誰も俺の事を人間では無いとは言わない。

……皆黙っているのです。

……じゃあ、テメエも黙れよ。

……出て行って下さい。

……分かった。後十分ぐらいしたら出て行くよ。

 私はしばらく座って、相手を見ていた。相手は黙って横になったきり、微動だにしなかった。私は黙っているのが嫌だったので、質問する事にした。

……人間て何だ?

……人間は人間です。

……やってらんねえ。くだらないし、馬鹿馬鹿しいな。君も馬鹿だ。

……あなたは馬鹿で間抜けです。

……間抜けで悪かったな。もういいや。帰るよ。って此処は俺の部屋なんだけど。

……そうかもしれない。でも約束は守って下さい。

……分かった。まあいいや。

 私は玄関に在った自分の傘を持ちそのまま外に出た。私には行く所が無かったので、本屋に行き、本を読んだりした。その後、食事をし、また部屋に戻った。

 ドアを開けるとまだ部屋に居た。私はドアを閉め、外に出た。

 今度は電気屋に行った。色々な製品を見た。全ての情報は私に向かっている様に感じた。そのうち一つのラジオが私に話しかけているのに気がついた。

 私は寂しかったのでそのラジオを買い、歩きながら話をした。ラジオとは漫画等の話をした。それから芸術の話になった。

……全ての芸術はくだらないな。

……そうか? 面白い物もある。

 ラジオは安っぽい音を出していた。

……皆糞だ。くだらない知識が増えるだけだ。

……結構役に立つぜ。

……社会的な役に立つかもしれないけど、生きていく上で役に立つ訳ではない。

……生きる事は社会的な事ではないのか?

……そうだ、社会的なものだ。そして人間的なものだ。すべからく人間的なものは駄目だ。

……君は人間だろ?

……確かに人間だ。だが人間的なものは嫌いだ。

……人間的なものって何だ?

……人間的なもの。さあ何かな。物を区切ったり、組み立てたり、分類したり、分析したり、まあ、何か汚らしいものだ。

……美しいと言われるものもあるぜ。

……美しいものなんてあるのかな。見たこと無いな。大した物は無い。天才なんていないんじゃないかな。

……天才はいるだろう? 過度に才能が有る人物も。何だって作るには才能がいるぜ。

……人間は物を作れないよ。創るのが許されるのは神だけだ。従がって才能も無い。天才って何だ? 何も無い所から物でも作れるのか? 何の思考の組み立て無しに物でも作れるのか? 発想にしたってその道筋が無いものでもないだろう。

……道筋が有ってはいけないか? 普通の人間には考えられない様なものも在る。

……考え様としないだけだ。望めば望んだだけだ。

……望んでも得られないことがある。

……そしたら天才は無い。物なんてどうでもいいだろ。物は物だ。でも物は物であって物ではない。

……何を言ってる。では何かを見たり、聞いたり、感じたりするだろ? 中にはそれによって物を作らざるをえない人間もいるぜ?

……人間に物を作ったり出来ないと言っただろ? 人間がものを見たり、聞いたり、感じたりなんかするか? そんな奴見たこと無いよ。そう言う事が出来るだけだ。

……それでも作った物が在る。作った過程があり、作る行為がある。

……人間はただ従うのみだ。行為なんてあるか? 自ずからというものは無いぞ。あるのは無為だけだ。

……何だそれは? 俺は良いものが在ると思うし、これからも出来るだろう。それは素晴らしいものだと思うがな。

……自然に何かを教えてもらい、身体に教えてもらい、『全て』に何かを教えてもらうだけだ。何も作れないし、力も無い。過去も現在も未来も無い。人間は死ぬまで何一つする事が出来ない。何故なら人間の生は円環で、その円環は人間が作った物ではないからだ。全ての価値、また価値あるものは人間が創るが、それは価値は無い。また行為も無い。君がその様に体から流しているものも何も無いであろう。

……ある。俺は在る。俺のする事はある。ある。ある。ある。

 私は少し言い過ぎたかと思ったが、その後段々うるさくなったので、地面に叩きつけた。

 だいぶ歩いたので私の知らない公園に着いていた。

 公園は夜で人気が無かった。雨が止んでいて、月が出ている。

 私には行く所が無い。それに少し歩き疲れたので、ベンチに座ってタバコを吸う事にした。しばらく座っていると、こちらの方に犬の様な影が近寄って来る。

 四つん這いの人間だった。両手と両足をついて歩いている。

 そして顔が私に似ていた。》



 私は私の家を建てる。誰も住めない家だ。



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