ある一兵卒の最後
爆発が起きた。
とんでもない爆発だ。
目の前の通路が丸ごと炎に包まれている。
多分、俺の足が短距離走のアスリート並みに速かったら、今頃俺の体は炭クズになっていただろう。
これで逃げ場は無くなった。
今来た道は全て通れない。
多分目の前の通路と同じように、丹念にローストされている所だろう。
「なんだってんだ、ちくしょう・・・」
思わず座り込んでしまう。
まぁ立っていた所で、何処に行くアテもない。
何せ俺の身長の倍近い火柱が、俺の前後を固めている。
曲がり角に挟まれた、Uの字の丁度最下部に当たる地形の場所で、俺は体を抱え込んだ。
死ぬのは嫌だ。
職業軍人なんてやっていたって、俺だって一人の人間だ。
戦場で銃弾に倒れるのは仕方ないが、訳が分からないまま殺されるのは御免だ。
そもそも、俺の所属する基地は襲撃して得するような場所には建っていない。
何で襲われるのか。
何で殺されるのか。
分からず死ぬのは本当に怖い。
「襲ってきたのは・・・誰なんだ」
曲がりなりにも正規軍の基地にちょっかいを出そうなんてイカれた奴は、そうはいない。
だが、ここ最近はテロの活動情報なんざ聞いたこともない。
そもそもこの20年、戦争らしい戦争すら起こってないんだ。
じゃあ、一体誰がーーーーーー
突如、頭の上が消えた。
正確には俺の頭上の天井が消えたのだ。
体を抱え込んでいた俺は咄嗟に頭を抱えた。
「うああああああああああああああ!!!」
遂に来た。
俺が死ぬ時が。
何のために、誰のせいで、どういう理屈で。
何も分からないまま、俺は今から死ぬ。
「ふざけんじゃねぇ・・・」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、無理やり上に向ける。
せめて、誰に殺されるかぐらいは知りたい。
何も叶わないのなら、せめてその理不尽のツラを拝んでやる・・・!
ーーーーーーーーーー目が、合った。
目算で見ても15メートル以上の高さの位置に、顔があった。
だがその顔に肉の質感はない。
ただ無機質で、固い、鉄の塊。
ただ、その塊の中央辺りに、緑色に発光する箇所が2つ。
あたかも人間の目のように光っている。
見たことはないが、知っている。
あんな存在を、俺は一つしか知らない。
「ALS・・・なのか・・・?」
それは、20年前に世界を変えた存在の総称。
ただ壊すことを極めた、人類史上最強の兵器。
それが今、俺を見ている。
「一体、何処の・・・」
茫然と呟いたとほぼ同時。
俺を見下ろしていたマシンナリーアームズから、おびただしい数の光が発射された。
どうやら俺は、何一つ知れぬまま死ぬらしいと、体を吹き飛ばされながら知った。