一言で伝えろ
<プロフィール>
商業では粟生慧で執筆しています。
おもに電子書籍ではBL中心です。
商業の内容はほぼエロです。
毎日、家電に隼人から電話がかかってくる。決まった時間。午後十時ちょうどだ。
内容は毎日さして変化など無い。
「好き、超好き。愛してる。チューしたい。抱き締めたい」
耳にたこができた。と言うか毎日同じ台詞を良く飽きずにいえるもんだ。
最初は照れくさかったけど、すっかり慣れてしまって新鮮味がない。
「なんか最近、充嗣の反応が、超冷たい気がする」
「気のせいだろ」
感づいたか、チッ、と思う。正直、マンネリになったんじゃないかな、お互い。倦怠期とか言うヤツだろうか。
「俺の愛が足りないのかなぁ」
などと、隼人がだれたことを言っている。
「別に足りないことはないと思うよ。むしろ、聞き飽きてるくらいだ」
なんだ。
電話口の向こうで隼人がそういった。
「毎回同じやり方じゃ、飽きてきちゃうわけだね。趣向を凝らさないと、充嗣に嫌われちゃうな」
「嫌う、好かれるという問題では無いと思うけど……」
何を思いついたか分からない。今から家に来るとでも言うのか。親にも秘密にしてるしカミングアウトする気なんか無いからな。と、身構えていると、いきなり電話が切れた。
は? 俺は受話器を眺め、呆然とした。なんの断りもなく電話を切るなど初めてのことだ。なんなんだいったい。と、ぼやきつつ子機を充電器においた途端、電話が鳴った。
慌てて出てみたら、ピーガーというファックス受信の音。なんだ、ファックスか……。と、俺は子機を置いた。
ファックスは一階のリビングにあり、両親はまだ起きてテレビなど見ているだろう。こんな時間にファックスを送るやつの顔が見たいが、俺宛でなければ、別に問題は無い。
ラグマットに放った雑誌を一冊手に取り、ベッドに寝転がって眺める。風呂にも入ったし、することないし、寝るかなぁ、都考えていると、階下から母親の呼び声が聞こえた。
こんな時間になんだ?
「充嗣~! 隼人って人からファックス~」
俺はがばっと跳ねるように起き上がった。
こんな時間にファックスを送ったバカは、隼人か!
弾丸のように階下まで降りた。
「ファ、ファックス!?」
俺が、リビングに立つと母親が苦笑いを浮かべて、俺に大量のファックス用紙を渡してきた。
一枚目「み」
二枚目「つ」
三枚目「ぐ」
四枚目「超」
五枚目「愛」
六枚目「し」
七枚目「て」
八枚目「る」
九枚目「!」
十枚目「は」
十一枚目「や」
十二枚目「と」
俺の体の中から血の気が音を立てて引いていく。あまりの引き潮加減にめまいがした。
母親は頬に手を当てたまま固まっている。
隼人の名前を知っているんだから全部見たはずだ。
気のせいか、ソファに座ってニュースを見ているはずの父親の耳がダンボに見える。
殺す。
いや、別れる。
表情があまりにも殺伐としていたのか、母親が反対になだめるように話しかけてきた。
「母さん、充嗣の気持ちを尊重するから」
頭が真っ白になる。震える声でやっといった。
「これ、冗談だから。いたずらなんだよ。困ったヤツだよな~」
母親に向けた笑顔は、けいれんしていたけれど、もはや気にしない。
明日、隼人に会ったら、ボコる。一回じゃ済まさない。
後日談。
「ファックスで愛の告白したの、電話代かかるの覚悟でやったのになぁ……。全然受けなくて残念! テヘペロ」
眼の周りに青タンを作った隼人が、どことなく嬉しそうにいった。
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なお商業収録作品は除外しております。
「キミイロ、オレイロ」関連作品のみ。