接触
「どうしてそんなこと聞くの?」
沙希は寂しそうに俺を見た。
「取り調べに協力すると言っただろう。俺は確かな情報を知りたいんだ」
俺の言葉に沙希は考えるような顔をした。
「そんなに聞くってことはあの人じゃなかったんだね。滝沢さんは誰が怪しいと思うの?」
俺は一瞬本当のことを言うべきか考えた。
しかし沙希の真剣な顔を見ると嘘をつくことができなかった。
「落ち着いて聞いてくれ。坂上幸一が犯人だと考えている」
沙希はしばらく固まっていた。
よほどショックを受けているのか、状況が理解できないのか、俺は心配になり沙希に声をかけようとした時だった。
「やっぱりそうだったんだ」
呟くような小さな声が俺の鼓膜を震わせた。
沙希は確かめるように独り言のように呟いていて、俺の顔を見ていなかった。
「坂上で間違いないのか?」
沙希の肩を掴んでこちらに向かせると、沙希は震える瞳をこちらに向かせながらゆっくりと頷いた。
「そっか、だから滝沢さんはここにいてあたしを守ってくれるんだね」
沙希は顔を上げると笑顔で言った。
「ああ」
その笑顔があまりにも純粋で、俺は何も言うことができなかった。
沙希はやはり死に怯えてはいないのだ。
例え身近な者が殺人者であろうと沙希は怯えることはないのだ。
「じゃあ安心だね。滝沢さんがずっとここにいてくれたら安心だ」
沙希の笑顔が段々と寂しく見えてきた。
先ほどの考えは間違いか、やはり強がっているだけなのか、そんな時扉がノックされた。
「失礼します。沙希ちゃん明日の検査の話だけど」
そこには話題に上っていた坂上幸一の姿があった。
坂上は持っていたカルテから目を離すと俺に視線を向けた。
「おや、刑事さんじゃないですか。沙希ちゃんにはあまり事情聴取をしないでもらえますか。
彼女に負担がかかったらどうしてくれるんですか」
坂上は強い口調で言った。
「そうですか。沙希ちゃんに事情聴取をされたら困りますか」
俺はわざと相手を挑発するように言った。
「あなたはこの子の状況がわかっているんですか」
坂上はあくまでも医者のように振る舞う。
中々尻尾を出すつもりはないらしい。
「先生大丈夫だよ。滝沢さんはお話してくれるの。だからいいの」
二人の喧騒を鎮めるように沙希の静かな声が室内に響いた。
「そうか」
坂上は少し寂しそうに呟いた。
それは坂上の医者としての表情なのだろう。
俺は静かに病室を出て行った。




