所有権
俺はまだ面会時間中にも関わらず沙希の病室に向かった。
母親は驚いたように俺を見つめていたが、すぐに椅子から立ち上がった。
「滝沢さん今日はいっぱい来てくれるね」
沙希はいつにも増して顔いっぱいに嬉しさを表した。
「これからはお母さんがここにいる時以外は俺が君のそばにいる」
母親は絶句していた。
沙希は一瞬キョトンとした顔をしたが、顔の筋肉が疲れないかと思うほどに笑みを深くした。
これが元気な子であれば飛び跳ねてしまいそうな勢いだ。
「本当に?本当にずっといてくれるの?」
沙希は弾むように言った。
「ああ、ただ、その代わり犯人逮捕のために徹底的に事情聴取を受けてもらう」
突然の俺の物言いに先ほどまでの笑顔が一瞬にして消えた。
沙希はいつも以上に悪くなった顔色を隠すようにそっぽを向いてしまった。
「事情聴取って、沙希はショックを受けているんですよ。そんなことを根掘り葉掘り聞くんですか。
あなただから私は信じたんですよ」
母親は先程の眼差しなどどこにもなく、蔑むような目で俺を見つめた。
「俺は刑事ですよ。それでなきゃここにいる意味がないんです。
聴取をさせてくれないと言うのなら俺はもうこの部屋にはきません」
俺はいつも通り刑事の目を母親に向けた。
刑事の目とはとても嫌なものである。
母親は怯えたように黙り込んだ。
「待って、待って、嫌だ。あたしちゃんと事件のこと話す。協力するから行かないで」
沙希はベッドから降りると頼りない足取りで俺の袖を掴みに来た。
「お願い、お願いします」
あまりにも必死な沙希の様子に俺は思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう、その言葉が聞きたかった」
「えっ」
沙希は驚いたように俺を見上げた。
俺はそんな沙希の頭をそっと撫でた。
「協力してくれてありがとう。ギブ&テイクだな」
沙希は笑顔で頷いた。
その様子を母親は胸を撫で下ろしてみているのを俺は横目で見ていた。
さあ、君と俺との楽しい尋問の時間だよ。




