疑惑
ひょっとすると彼女は彼をかばっているのかもしれない。
すっかり彼女のペースに乗せられていたが、そう考えるとはじめて訪れた時の彼女の対応にも頷ける。
俺は加藤に坂上のことを伝えると沙希の病室に足を向けた。
しかしおそらく面会時間が終わるまで母親は中にいるだろう。
俺はとりあえず加藤と合流することにした。
「目撃者が犯人を隠しているんですか?」
「ああ、とは言っても俺の勝手な想像だ。だが一つの可能性として疑う必要はある」
加藤は俺の真偽を確かめるかのようにじっと俺を見つめた。
「ならば羽田耕作は白なんですか、わざと違う人物に目を向かせたということですか?
脅されてたりするんですか」
「その可能性もあると言っている。今はどちらとも言えない。
しかし奴は彼女の主治医だ。もしも奴が犯人ならば証言した彼女を殺すことは容易い。
それに彼女はもう長くはない。薬が合わなかったなど何か言えば殺人よりも罪はかなり軽くなる」
加藤は神妙な面持ちで俺の言葉を聞いていた。
「これからどう動くつもりですか」
「彼女は母親が来る午後五時~八時以外はずっと病室で一人だ。いつ狙われるかわからん。
だから俺はしばらく彼女の病室を見張ることにした」
俺の言葉に加藤は驚きを越えて呆気に取られていた。
「滝沢さん何か変ですよ。どうしてあんなにあの少女に、何て言うか、滝沢さん同情してるんですか?
感情移入しすぎですよ」
加藤の目が俺を蔑んでいるように見えた。
確かに今回の俺はおかしい。
俺はすっかり沙希に惹かれてしまっている。
それは俺自身も理解している。
「わかりました。確かに護衛は必要ですし、大切な目撃者が殺されては元も子もありません。
僕は二人のことを探ってみます。滝沢さんはきちんと目撃者から本当の証言を聞き出せるようにしてください」
加藤は溜息交じりに話した。
「悪いな」
俺は何とも気の利いた言葉を言うことができなかった。
「でも案外いいかもしれませんよ。滝沢さんが仲良くなればなるほど彼女の証言が素直に引き出せますからね。頼みましたよ」
加藤はそう言うと、被害者のことを詳しく調べると言って歩き出してしまった。




