守ること
それから俺は加藤と共に病院内の聞き込みをすることにした。
真面目そうな三十代の男性。
まずは医者の中から該当する人物を探すことにした。
「でもあれですよね。医者って全員真面目そうに見えませんか」
「そうだな」
この病院には三人の医者がおり、その中で該当する人物はただ一人だった。
「坂上幸一か、加藤話を聞いておいてくれ。俺は患者のリストをもらってくる」
病院内を歩いているとあちらこちらで点滴を点けたまま歩く患者の姿が見える。
他には車椅子に乗った者、寂しそうに病室に入って行く者。
当たり前の話だがここには幸せそうに笑っている者は誰もいない。
ただの数日で退院できる者ならまだしも、こんな所で数か月も過ごす者。
こんなところで自分の命が尽きるのを待つ者。
そんな者ほど悲しいものはない。
俺はリストに目を通しながら自然とあの子の病室へと足を進ませていた。
「滝沢さん?」
扉の前に立つと後ろから声が聞こえてきた。
驚いて振り返るとやはりそこには沙希が立っていた。
「どこかに行ってたのか?」
「検査だよ。滝沢さんは?私にまだ聞きたいことがあるの?」
沙希はきょとんとした顔をしながら扉を開けた。
「またお話する?」
沙希は少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「いや、これから患者の中から洗い出さなければ・・・って、そうだ。顔を見れば犯人かどうかわかるだろう?」
「えっ」
沙希は驚いた顔をすると慌てたように目を逸らした。
「覚えていないのか?」
沙希は何を聞いても答えようとはしなかった。
「怖いのか」
沙希はその瞬間ピクリと体を震わせた。
「大丈夫だ。俺が必ず捕まえる。君を守るよ」
沙希はまだ怖がっている様子だったが、すぐに笑顔を浮かべた。
「でも、あたしはっきりと覚えてない。あっ、でも見たらわかるかもしれない。写真見せて」
沙希は少し震えた声で言った。
まだ完全に安心したわけではないのだろう。
無理もない。
犯人は同じ病院内にいるのだから。
ベッドの上で沙希は一枚一枚真剣に見つめていた。
「わからないけど、この人かもしれない」
全ての写真を見終えてから沙希はゆっくりと呟いた。
「羽田耕作か」
男は二週間前から肺炎で入院している。
「ありがとう」
俺は一刻も早く犯人を見つけるべく駆け出した。
「あっ」
後ろから引き止めるような声が聞こえた。
「すまないが今回ばかりは付き合ってられない。君のためにもな」
沙希は悲しそうな顔をしていた。
今にも涙が零れてきそうだったが今はそれに構う余裕はなかった。
俺は犯人を後回しにすることで沙希が危険な目に合うことに気付けなかった。
彼女は犯人の顔を見ているんだ。
何故早くに対処しようとしなかったのか。
待て、今へたに証拠もなく俺が向かえば沙希が話したと気づいてしまうかもしれない。
「いや、俺はここにいよう。君を守るために」




