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証言

「今度こそ聞き込みきちんとしてきてくださいよ。それにしても滝沢さんが何もなく帰ってくるなんて、情でも湧いたんですか?」


翌日俺はデスクに着くと颯爽と少女の病院に向かう準備をした。

そんな時に不思議そうな心配そうな顔をした加藤が声をかけてきた。


なんせ俺は日頃からスピードが大事だと言っている。

そんな俺が第一発見者に会いに行ったにも関わらず何もしなかったとなると不思議に思って当然だ。


そんな行動をした俺自身が一番驚いているのだから。



「ちゃんと情報を持って帰るさ」



そうして再び訪れた病室の前で俺は一度深呼吸をした。



「失礼します」


まだ朝の九時を過ぎたところだからか母親は来ていなかった。


個室の誰もいない部屋ではベッドで眠っている少女がとても小さく見えた。



「あっ、刑事さん」


気配に気づいたのか、ゆっくりと顔を向けた少女の顔は笑顔で満ちていた。


寝起きの少女の顔は昨日よりも少し元気がないように見えた。


それはただの俺の少女の見方が変わっただけかもしれないが、どこか顔色が悪く見えた。



「朝早くにすまない。だが一刻も早く犯人を捕まえたいのでな、犯人のことを伺いに来た」


少女は俺を見つめたままゆっくりと体を起こした。


「十時になったら看護婦さんが注射を打ちにくるの」


少女は何処か上の空で俺が見えているのかも疑問だった。


「それまでの間でいいです。ゆっくり昨日のことを思い出してください」



今度は俺の顔をしばらく見つめはじめた。


「あのね、あたしの知ってる人だったの。だからきっと、きっと病院にいる人だと思うの」



少女は意を決したとでも言うように声を張り上げた。



「病院にいる人、医者か、患者か」


「わからない。でもあたしはしばらく外に出ていないから会うなら病院しかないの。だからきっと病院の人。アリバイ?聞いたらわかるんじゃないの」



少女は突然必死な形相で語り始めた。


さっきまでの元気のなさは微塵も感じられず、やはり余命三カ月という言葉はとても信じがたかった。


「わかった。君の言葉を信じて調べてみよう。ところでその人物の特徴を何かあげられないか」


「特徴・・・」


不安げな顔をしながら必死に記憶を辿っている少女。


まだ会うのは二回目だが、この短時間で少女の色々な側面が見られた。


俺はやはり業務を全うすることよりも少女のことが気になって仕方なかった。


「男の人だった。それで、たぶん三十代ぐらいの人だと思う。真面目そうな人だった。後はわからない。ごめんなさい」


少女は借りてきた猫のように萎縮してしまった。


「いや、それだけ分かれば十分だ。また何か思いだしたら言ってくれ。それでは失礼する」


俺はまるで逃げるように踵を返した。


何故この場から早く離れようとしたのかは俺にもわからない。

しかしこれ以上ここにいると俺がどんどんおかしくなるような気がしたことは確かだ。


「待って」


扉を開けようとした時、はっきりとした少女の声が聞こえた。


俺は飛び上るようにして少女を振り返った。

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